第174話 戦場、馬上にて(7)S☆3
「姫様! 敵部隊が後退していきます!」
「後退だとっ?」
騎士の報告を受けながら、ヤシャルリアはすぐ彼の言葉が真実であると己が目で確認した。
しかし、敵軍の撤退が何を意図するものなのか、それが彼女にはわからない。
(何故だ? 何故今、この機に部隊を退かせる?)
現在、ヤシャルリアが率いる連隊はおおよそ最前線と言って相違ない場所へ斬り込んでいた。
連隊を3つの大隊に分け、各個駆逐される友軍を可能な限り救出しながら進軍している。
局地的にみれば彼女の大隊らは優勢であると言って良かった。
だが、その優勢が長く続かぬことはヤシャルリア自身よくわかっている。
現に彼女は、今戦場で戦う友軍の半数も救出できれば後退するつもりだった。
それは敵後方部隊の前進、そしてその部隊による反攻を恐れるが故だ。
だというのに、敵軍は後方部隊を上げてくるどころか、前線の部隊を下げようとしている。
この敵軍の行動は、ヤシャルリアに言いようのない不安を与えた。
(この後退はなんだ? まるで私が友軍を救出するのを後押しするようではないか?)
疑念が胸裏より湧き出る。
ヤシャルリアは、一瞬このまま友軍の救援を続けて良いものかどうか迷ってしてしまった。
しかし――
「姫! 城より後退の合図ですっ! 友軍に後退の合図が出ましたっ」
「っ! ヤサウェイかっ!」
――彼女が判断を鈍らせた直後、友軍の城より後退の合図が出る。
すると、友軍のいくつかの部隊は攻撃を止め、後退へと転じだした。
(敵が友軍を追撃する様子もない……これならばっ)
刹那、ヤシャルリアは決断を下した後、命令を声に出す。
「現時点をもって友軍の救出を中止! 直ちに城まで後退する! 後退の煙弾をあげろっ!」
この後、彼女は即座に2個大隊と合流し、友軍を支援しながら共に後退を果たした。
敵軍の後退もあって予想よりも救出できた兵も多い。
だが、ヤシャルリアが現状を手放しに喜ぶことはなかった。
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