第172話 戦場、馬上にて(5)S☆3
戦場を斬り進むヤサウェイは黒剣を振るいながら、相対する敵に対して違和感を覚えていた。
(おかしい……どうにも簡単すぎる)
彼は今、指揮下にいる400余名の騎馬隊を縦列にて敵へ突撃させている。
騎士達の練度も高く、敵の歩兵相手にそうそう後れを取るとも思っていなかった。
だが、現状には違和感がある。
具体的に言葉にするなら、敵の数が少ない。
本来ならば今頃、友軍の城は敵軍に包囲されていてもおかしくない頃合いなのだ。
特に今回の戦においては、ヤシャルリアは完全に後手となっていたのだからなおさらだ。
――敵に攻勢の動きあり。
そんな情報を掴み動き出した時には、既に友軍の城は攻撃を受けっていた。
だからこそ、ヤシャルリアは友軍への救援に躍起になったのだ。
状況を捨ておけば、3000名の連隊は全滅に追いやられると理解していたから。
自身に反発する将が有する連隊を、なるべく少ない損傷で接収するため、彼女は急いだ。
しかし、現状はどうだ?
敵は城を包囲などしていない。
友軍をおしてはいるものの散り散りになった敵を各個撃破しているだけだ。
無論、それが悪いとは言わない。
隊を散らせ、小規模になったところを潰すというのは理解できる。
だが、なぜわざわざそんな方法を取った?
ヤサウェイの内にあった違和感は、次第に疑問へと変わる。
(今……奴らの動きは、故意に侵攻を遅延させているように見える。なぜだ?)
しかし、彼が答えを出す前に、作戦は次の段階へと移った。
「赤鉄鉱様! 前を!」
アイリーンの叫びで、ヤサウェイは目を凝らす。
前方に城門が見えた。
「城門です!」
「ああ、わかっている! 開門させろ!」
彼の指示にアイリーンは頷くなり、配下の者に指示を飛ばした。
だが、ヤサウェイやアイリーンが指示するよりも早くに門が開き始め、直後に野太い声が聞こえ出す。
「友軍だ!」
「援軍が来たぞっ!」
「赤鉄鉱の騎馬隊だ! 助かるぞっ!」
希望にすがるような声に迎えられながら、大隊は城をくぐった。
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