第170話 戦場、馬上にて(3)S☆3
先頭を行く者達の雄叫びが後方にも届く。
彼らの声を聞いた途端、後方にいた騎士の一人が叫んだ。
「突撃だっ!」
先陣を切ったヤサウェイさんの命令を伝達するその言葉に、周りの騎士達が馬の腹を蹴り始める。
武器を構えた騎士達は、隊列を乱さぬようにと馬を走らせた。
加速していく、幾百もの背中。
その背を見送って十数秒――私の番はすぐに訪れた。
ごくりと唾を飲み込む中、手綱を握る手にじわりと汗がにじむ。
不安を隠しきれない私は、自分を鼓舞しようと隣にいるタケに目線を向けた。
すると、彼の二つの目はしっかりと私のことを捉えている。
「行くぞ、サクラ! 絶対、俺の傍を離れるな!」
力強いタケの声に、私ははっきりと頷いて見せる。
「うんっ!」
直後――
「サクラっ!」
――私は、背後から聞こえたメルメルの声で振り返った。
「無事で、帰ってきなさいっ」
この時、まだ魔導が使えないメルメルは後方の輜重部隊の一員として数えられていた。
だから、彼女は今回の突撃に、直接的に関わることはない……筈だ。
私はその事実に木っ端みたいな安堵を感じながら、メルメルにもしっかりと頷いて見せた。
「わかってる! 待っててメルメル。こっちには、一人だって敵は来させないよ」
しかし、そんな私の返答を聞いても彼女の表情が晴れることはない。
「絶対よ! 絶対だからねっ」
声を震わせ、強く念を押すメルメルに――私は「絶対」と返せなかった。
私は彼女に背を向け、痛いほどに強く手綱を握りしめる。
すると、メルメルは次にタケへと声を発した。
「タケ! サクラを、無事に戻らせて!」
「ああ、何に代えても!」
タケは、間髪入れずメルメルへと言葉を返す。
次の瞬間――
「それからっ!」
――メルメルは、一瞬の間に言葉を詰まらせた後、喉が破けんばかりに声を爆ぜさせた。
「あんたも! ちゃんと帰ってきなさいっ」
メルメルの精一杯の心配と祈り……それが、ハッキリと私達の胸に伝わってくる。
「わかってる!」
「大丈夫だよ!」
私とタケは、そんな風に彼女に答えを返した後、もう振り返りはしなかった。
私達の馬が駆け始める。
私はタケと一緒に、戦場の風を切って進んだ。
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