第161話 前夜(4)S☆2
二人を交互に見つめながらお茶を飲んでいると、アイリーンさんがお菓子をすすめてくれる。
「さあ、黝輝石様。こちらのお茶菓子もどうぞ。最近では手に入りにくい国境付近にある名店の一品ですよ!」
彼女はなんだかもふもふとした見た目のお菓子を私の手に乗せた。
一口サイズのそれはしっとりと重い。
おそらく、薄い生地の焼き菓子の中に何かが詰まっている類のお菓子なんだろう。
そんな予想を立てながら、私はぱくりと菓子を口に放り込んだ。
すると――
「あっ、あまいっ!」
――一瞬、カサリとした薄い生地に歯を立てた後、口の中にしとりとした甘みが広がる。
口の中に入れた甘みは舌の上でみるみる内に溶け、刹那の内になくなってしまった。
「お気に召していただけましたか? シュークリーム。実はこれ、自分の故郷にある店の品でして」
と、アイリーンがつらつらと説明してくれているにも関わらず、私はぱくぱくと シュークリームを食べ進めてしまう。
私はあっという間にシュークリームを食べてしまい、気付いた時にはヤサウェイさんとアイリーンさんにまじまじと見つめられていた。
つい、我を忘れてしまったかもしれない……。
「あ……ご、ごめんなさい。お話聞いてなかったです」
そうして、こわごわと私が口を開くと、唐突にヤサウェイさんが吹き出し、笑い始めた。
「いや、すまない。ちょっと懐かしくてね」
「な、なつかしいですか?」
「ああ。なつかしかったんだ。それに、君が謝る必要はない。アイリーンも、君の反応には満足の筈だよ」
名をあげられた途端、アイリーンは一瞬びくりと肩を震わせたが、直後に何度もうなづいてヤサウェイさんの言葉を肯定する。
「はい! お気にめしていただけたようでうれしいですよ!」
「そ、そう言ってもらえたら……なんというか、助かります」
熱くなった顔をうつむける私に、アイリーンさんはお茶のおかわりもすすめてくれた。
そして、茶器を手に取りお茶を注ぎながら――
「そうだ。良ければ後日、またお茶と一緒にシュークリームをご用意いたしましょうか? すぐにという訳にはいきませんが、今日の出陣の後……戦場から再び帰還した際にでも」
――と、私を後日、お茶の席に招待してくれる。
けれど……。
「そう、ですね」
私は『戦場』という言葉が出た途端、すっかり体が萎縮してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます