第150話 ヤシャルリア達の世界(4)S☆1

 食事を終えた後、俺達は従者と共に現れたアイリーンによってある部屋の前へと案内された。

 だが、そこは何の変哲もない……というよりどちらかと言えば地味な部屋だった。

 俺としては、あのヤシャルリアがこんな小さな部屋にいると言われても困惑してしまう。


「あの……本当にここにヤシャルリアがいるのか?」


 思わずアイリーンに訊ねると、彼女は慌てて頷いた。


「えっ? あっ――もちろんです! ここはヤシャルリア様の私室であります!」

「私室?」

「はひっ! なにか思案をなされる時などは、たびたび使用されているのでありますっ!」


「気持ちはわからないでもないわね。アタシも、工房にこういう小さな部屋を作っていたし」


 そうなのか? と、俺がメルクオーテに訊ねる中、アイリーンは部屋の戸をノックした。


「失礼します! 姫様! 黝輝石様とそのご家族様をお連れしましたっ」


 アイリーンの言葉を聞くなり、隣にいたサクラが何故か微笑んだ。

 しかし、その笑みの理由を訊ねる間もなく、部屋の中からヤシャルリアの声が聞こえてくる。


「ああ。入ってくれ」

「はっ!」


 アイリーンがガチガチに畏まりながら戸を開ける。

 すると、部屋の中で小さなテーブルの前に座り本を読むヤシャルリアの姿が見えた。

 傍にはヤサウェイも控えている。


「黝輝石、食事は楽しめたか?」


 俺達を見るなり、ヤシャルリアはサクラに声をかけた。


「はいっ、とても」

「そうか」


 彼女は静かに頷くと、続いて俺とメルクオーテに目線をむける。


「……で、あとの二人はどうだった? 仮にも敵に差し出される食事だ。喉を通らないのではないかと心配していたぞ?」


 おそらくは俺達を気遣っての言葉なのだろうが……その口調のせいで、どこかからかわれているようにも思えた。


「食事はありがたく頂いたよ。正直、ここまでしてもらえるとは思っていなかった」


 率直な返事をする俺に、ヤシャルリアはにやりと微笑む。

 どうもこの姫様は、回りくどくない言葉回しを好んでいるように感じた。


「貴様はタケと言うのだったな。貴様達には待遇に相応しい働きを期待している。元々、私はそのつもりで貴様を探し回っていたのだから」

「俺を、探し回っていた?」

「ああ。察しがついていなかった訳ではあるまい?」

「あの時……あんたが俺を狙っていたってことはわかってる。けど、その理由がわからない」

「私は、今からその理由を話してやろうというのだ。ついでに、そこの娘への説明もな」


 俺の答えを薄く笑いながら、ヤシャルリアはメルクオーテを指した。


「あ、アタシ?」

「貴様も魔導士だろう? 今、この世界で魔導が使えず、途方に暮れているのではないか?」


 魔導のことを指摘され、メルクオーテの表情が瞬時に驚きと不安に染められる。


「説明が、できるの?」

「もちろんだとも。そして、資質次第では再びこの世界で魔導が使えよう」


 ヤシャルリアの解答に、メルクオーテはごくりと唾を飲み込んだ。

 そして、彼女の反応を楽しむかのように、ヤシャルリアは語り始める。


「では、話すとしようか。皆、各々席に着くといい。長くなりはしないが、立ちながら聴かせることでもないのでな」

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