第118話 124回1日目〈2〉S★3

「お前、なんなんだっ」


 黒剣と鉄杖で競り合い金属が擦れる中、俺は黒色の騎士に問う。


「……人間か?」


 しかし、直後に灰褐色の死人のことを思い出した。

 こいつも、ヤシャルリアが生み出した口利けぬ屍の一人なのかもしれない。


 ……無駄なことを訊いたな。


 俺は一人納得し、再び魔女に対する殺意や嫌悪感を滾らせていく。


 だが――


「前は、そうだった」


 ――唐突に、黒兜の中からくぐもった男の声が届けられたっ。


「なっ――」


 黒色の騎士は俺の問いに答えながら――


「だが、今は違うっ!」


 ――競り合っていた鉄杖ごと、俺の体を押し飛ばす!

 が!

 まだ、それだけでは終わらない!


 黒色の騎士は押し出した腕を即座にたたみ、新たな斬撃を放とうと構えていた。

 それは、敵に間など与えない連撃。

 力任せ一辺倒の俺には到底真似できない、まさしく騎士の剣技だった。


「くっ――」


 しまったと思うが、声に出す間も与えられないっ。

 次の瞬間、黒色の騎士は迷うことなく俺の肩口めがけて黒剣を振り下ろした!


 しかしっ――


「タケっ!」


 ――黒い刀身は急にピタリと静止する!


 続けて、俺の体は独りでに後ろへと飛び退き、黒騎士の間合いを脱した。


 だが、体勢が崩れていたことには変わらない。

 俺は――いや、俺達はその場で、どさりと尻餅をついて倒れることになる。


 そして、俺はそこでようやくサクラの存在に気付いた。

 彼女は俺の服――背中を握りしめたまま「ふぅ」と細い溜息を吐く。


「あ、あぶなかった」


 どうやら俺の体が飛び退き、黒剣の斬撃を免れたのはサクラの助けによるものらしい。


「ありがとう、サクラ。助けられた」


 俺は礼を口にしながら立ち上がるが、サクラは「それより……」と言って顔をしかめる。


「奇襲、失敗しちゃったね……」


 ポツリとこぼされた言葉に、俺は返答できなかった。

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