第115話 123回14日目〈3〉S★1

 すると、サクラが俺達を交互に見つめ、首を傾げる。


「二人は、また喧嘩?」


 彼女の無垢な瞳にあてられ、俺は咄嗟に否定しようとしたのだが。


「いや、喧嘩ってことは――」

「別に、そういう訳じゃ――」


 タイミング悪く、メルクオーテと、声が重なった。


 その拍子に彼女と目まで合ってしまい、気まずさも相まってくすぐったい気持ちになる。

 ぎこちない俺達二人をサクラがくすくすと笑って見守る中、俺は取り繕うように口を開いた。


「し、しかし。その、なんだ。血で世界や場所を特定できるってのはすごいな。便利だ」


 会話の切り口として、それは自然とは言えないものだったが。


「ま、まあね」


 メルクオーテは俺の考えを汲んでくれたのか、どこか早口になりながらも答えてくれる。

 しかし。


「でも、今回は色々事情が特殊だから。あんたの力に頼ってる部分が大きいし、場所の指定に血を用いるのは主流ではないの……それに――」


 ふとした瞬間をきっかけに、口早だった彼女の語調はゆっくりになった。

 怒ってはいないようだが、後ろ暗いことがあるかのようにメルクオーテは言い淀み――


「なんだよ?」

「ううん……ただ少しね、便利というには融通が利かないところがあって……」


 ――ついには薄っぺらい愛想笑いを顔に貼り付けて、わざとらしく笑い出した。

 そして、彼女は感情の伴わない笑顔のまま、空いた手で自身の腰元に手を伸ばす。

 メルクオーテの指先が、腰に差してある宝石のはまったナイフへと届いた。

 彼女はそれを抜くなり逆手に持ち替え、俺とサクラに真剣な声色で語る。


「タケ。あのね……一応、戦う準備をしておいて」

「え?」

「サクラも。向こうに行ったら、アタシ達から離れないでね」

「メルメル?」

「急にどうしたんだよ?」


 メルクオーテに訊ねてみたが返答はない。

 それどころか、彼女は口元にナイフの柄を添わせ魔導陣を起動させた。

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