第114話 123回14日目〈2〉S★1
「じゃ、タケはそこでじっとして動かないで。サクラ、タケの手を握って傍にいなさい」
メルクオーテは簡単な指示を出すとしゃがみ、俺達の周囲に魔導陣らしき模様を書き始める。
「これで、転移をするのか?」
「何言ってんの。転移自体はタケの力でしょ。これは補助。迷わず目的地に行くための工夫よ」
コツコツとチョークを鳴らしていた手が止まると、彼女は立ち上がって答えた。
「アタシ達が目指すのは何十、何百とある異世界のうちのたった一つ。迷わないようにするには目印が必要でしょ?」
「目印?」
「そ。今回はヤシャルリアって魔女の魔力が目印になる。で、ここでサクラの出番ってわけ」
「私の?」
急に名前を呼ばれ、サクラはきょとんと首を傾げる。
直後、メルクオーテは「ええ」と頷くと、懐から赤い液体の入った小瓶を取り出した。
「正しくは、サクラの――いいえ、ヒサカさんの中に残ったヤシャルリアの魔力の出番ね」
彼女は小瓶のフタを開け、中身を魔導陣の中央に垂らしながら説明を続ける。
「これにはヒサカさんから採った血が入っているわ。液体宝石を体に流し込み、アタシが手を加えてプラチナドールになる前の血よ。そして、この血の中にはヒサカさんを最初にプラチナドールにしようとしたヤシャルリアの魔力が残っているの。つまりこの魔導陣は血からヤシャルリアの魔力を探知して、私達の転移先をその魔女のいる世界に設定するためのものなのよ」
メルクオーテは小瓶を軽く振り、最後の一滴を魔導陣の中に落とした。
その後、ポトリと赤い液体が落ちるのを見届けると、彼女自身も魔導陣の中に入り――
「ぅおっ」
――いきなり、俺の手首を握る。
急だったので、妙な声が漏れてしまった。
「ちょっ――変な声出さないでよ!」
「いや、すまん。少し驚いた」
謝罪を口にするも、どうやら俺はメルクオーテの機嫌を損ねたようだ。
「ばっ、ばか! ばかじゃないの! 一緒に転移するために必要なんだから仕方ないでしょっ」
彼女は不機嫌に言葉を重ねた後、ふんっと俺からそっぽを向く。
それでもしっかりと手首を握ったままなのは、転移が直前に控えているからだろう。
なのに……メルクオーテとの間に、気まずい雰囲気が訪れてしまった。
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