第106話 123回11日目〈16〉S★5

「うぬぼれなんかじゃ……ないわよ」


 メルクオーテの手がサクラの肩を離れ、そっと背中へと回される。


「でもっ……あたしは……サクラに、好きになってもらう資格なんてない」


 声を震わせた後、彼女はきゅっと唇を噛んだ。

 サクラを強く抱き締めながら、まるで自分の行いを責めるように。

 だが、メルクオーテの言葉や行いを……その腕に抱かれる少女が、責めることはない。


「そんなことないよ。私は、メルメルが大好き」


 その真っ白な好意をサクラに向けられる自分が、彼女は許せないのだろう。


「ばかじゃないの……」


 そして、メルクオーテはサクラではなく、彼女の中にいる自分を重ねて否定した。


「本当に、ばか……そんなの全然賢くないっ。それに……たった一週間やそこらじゃない」


 しかし。


「ううん。違うよ」


 サクラは首を振り、メルクオーテを抱きしめて返した。


「私、ばかじゃない。それに、二人に出会って一週間でもないよ」


 ぎゅっと指先に力を込め、彼女は言葉を積もらせる。


「八日……私が二人と出会って、八日経ったの」


 とても些細で、サクラにとって何よりも大事な訂正と。


「そのたった八日で、私はこんなにも大切で、好きな人ができたよ」


 彼女なりの、精一杯の今までを。


「それって、すごいことじゃない?」


 耳元でそんなことを告げられた途端、メルクオーテの表情が一気に崩れた。


「サクラっ……」


 声に、嗚咽が混ざり始める。

 途絶え途絶えに呼吸が荒くなった彼女は今、言いたいことも容易に言えはしないだろう。

 そんなメルクオーテの背中を撫でながら――


「だからね、メルメル」


 ――サクラは誇らしげに言った。


「メルメルのつくったサクラは、ばかなんかじゃありません。とても優秀な、賢いプラチナドールなんだから……」

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