第101話 123回11日目〈11〉S★4
「サクラの目の前なのに、ハッキリ言うのね」
「この子は賢い。もう、気付いてる。全部わかってる」
俺の返答に、彼女は一度サクラを見遣る。
だが、すぐに苦い顔をして目を逸らした。
「それでも……言葉はもっと、選びなさいよ」
低く沈んだメルクオーテの声は威圧的で、強い怒りが滲んでいる。
もし今、彼女の声が形を得たとしたら、俺の耳はメルクオーテの言葉が届いた途端、ずたずたに裂けてしまうだろう。
けど、怒りを孕んだ彼女の言葉が、俺にとっての刃物となりえるように。
俺の言葉は、サクラにとって毒になる。
どう言葉を選んだところで、それは毒の水か毒の蜜かの違いしかないのだ。
「どんな言葉を選んでも、俺が言うことは、サクラにとって毒にしかならない」
達観したというにはあまりに醜い言い訳。
それを、隣に居るサクラは、身じろぎ一つせず黙って聞いていた。
しかし。
「なによそれっ……」
ぎりっと、鮮明な音が聞こえる程に歯を噛みしめた後――
「馬鹿じゃないのっ! 自己完結してんじゃないわよっ!」
――メルクオーテは銃弾のように刹那的で轟々とした怒りを爆ぜさせた。
「あんたがどんな風に考えて、サクラに何を聞かせたって、受け取るのはサクラなんだからっ!毒でも何でも、わかってるなら尚更っ、言葉は選ぶべきでっ――」
だが、彼女は途中で、自身の口から吐き出る空気の塊に言葉を阻害されてしまう。
急な怒声に喉を刺激され、空咳が出たんだろう。
メルクオーテは二、三度咳をすると、息を整えろと体に強制された。
そして、はぁはぁという煩わしそうな呼吸音の後。
「大事な人からの言葉なら、毒だって、薬になることもあるんだから。最後まで、自分の言葉には責任を持ちなさいよ……」
彼女の、硝煙のような静かな怒りが紡がれた。
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