一生のお願い-相談-
第97話 123回11日目〈7〉S★3
サクラの涙が止まった後、俺達はメルクオーテに相談をするため部屋を出た。
彼女の協力なしに、ヒサカの魂を取り戻すこと――つまりは、ヤシャルリアのいる世界への転移は不可能だからだ。
だが、簡単には了承してもらえないだろう。
もう悩むのをやめる――。
以前、サクラのことを話したメルクオーテが、俺達の話を聞けばどんな反応をするかは想像に難くない。
何と切り出せばいいかと考えるが言葉は浮かばず、緊張で飲み込んだ唾が毒のように思えた。
そんな時——
「私、ちょっと顔洗ってくるねっ」
――サクラがそう言い残し、俺とは逆方向へ走り出す。
泣いた直後の顔を、メルクオーテには見せたくなかったのかもしれない。
返事をする間もなく走り去った背中を見送り、俺は一人、メルクオーテがいるだろうと、研究室へ足を向けた。
しかし……。
◆
それは、決めつけだった。
俺は研究室へ向かう途中、厨房でメルクオーテの背中を見つけて足を止める。
鍋で何かを煮込むコトコトという音が聞こえ、そこからあがる水蒸気に混じって野菜の香りがここまで漂ってきた。
どこか甘みのある、コンソメのような香り……。
つい今しがたかいだことがあったような気がして、俺は気を取られた。
すると。
「タケ?」
ぼうっと突っ立ていた俺に、メルクオーテが気付く。
「もう、いいの?」
「あ、ああ……」
「そう。まあ、いつまでも寝られてても邪魔なだけだしね。ひとまず安心したわ」
口元を小さな笑みで飾り、また彼女は鍋に視線を移した。
その後、メルクオーテはテーブルに並べた食材を手に取り、また俺に問いかける。
「ねぇ、何か食べたいものある? サクラに訊いてもね、なんでもいいっていうの。どれも食べてみたいものばっかりだからアタシが選んでいいよだって。欲があるのかないのか……困っちゃうね」
彼女の目線は確かに野菜に向けられている。
しかし、俺を聴き手にし、くすりと微笑むメルクオーテは、まるで違うものを見ているようだった。
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