第80話 123回10日目〈10〉S★3
どんな言葉をかけたとしても、来るべき日……きっとこの瞬間の出来事はサクラを傷つける。
先の未来を想像して、俺はぐっと唇を噛んだ。
これ以上、醜い言い訳をせぬように胸の奥に押し留める。
だが、固く結んだ唇は、気を抜けば緩んでしまいそうになった。
目の前で、たった一つの言葉も掛けられることのないサクラの背中が、ひどく寂しく見えたからだ。
しかし――
「ねぇ、そろそろサンドイッチ食べに来ない?」
――彼女の背中が寂しいだなんて……サクラが、俺が声をかけねば独りだなんて……とんだ思い上がりだった。
「サクラ? あんなにサンドイッチに熱視線送っておいて、もう今はお花に夢中なの?」
なにやらショックから立ち直ったらしいメルクオーテは、優しい口調で責めるようにサクラをからかう。
「わっ、ごめんメルメル! すぐに行くからっ」
サクラはメルクオーテの声が耳に入った途端、素早く体の向きを変え、サンドイッチの待つレジャーシートに走った。
サクラの背が、あっという間に俺達を離れていく。
すると、桜に似た木の傍には、俺とメルクオーテの二人だけが残った。
「……なんて顔してるのよ」
決して怒った口調ではない彼女の言葉が、針のように胸に刺さる。
「……すまん」
口ごもるメルクオーテの顔を見れば、自分の表情が今どんなにひどいか簡単に想像できた。
「アタシ達、気分転換に来たはずでしょう?」
彼女はそう切り出したが、すぐ歯がゆそうに口を閉ざす。
だが、メルクオーテは「ふぅ」と息を吐くと、今度は何やら吹っ切れたように口火を切った。
「サクラのこと、気負うのは仕方ないと思う。けど、今は考えても無駄よ。こう言ったらあんたに悪いと思うけど、サクラの体の持ち主――その人の魂を取り戻せる保証はない。へたをすれば一生……わかる? あんたは今、考えても仕方のないことを考えてるの」
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