第81話 123回10日目〈11〉S★3

 彼女の言葉は、いちいちもっともだ。

 しかし、と考えてしまう。


 俺は、ヒサカを見捨てないと誓ったのだ。

 ならいつか、代りにサクラを見捨てなければならない。

 そもそも、ヒサカの体にサクラを入れたのだって……ひいてはヒサカの為だった筈だ。


 なのに、それがわかっていながら、サクラに優しく接するなんて……。


 俺は「できない」と言おうとして、それを声に出すのをやめた。


 自分が今、サクラに優しくも、冷たくも……どちらに徹することもできていないことを、改めて自覚してしまったからだ。


「……俺は、考えても仕方のないことを、考えてるんだろうか」


 ぼそりと、独り言のようにつぶやく。

 これを聴いているのが、まるで自分しかいないように。

 だが――


「ええ。たぶん……」


 ――聴いてくれている人は、すぐ傍にいた。

 甘い花の香りをまとい、メルクオーテが俺に近付く。

 彼女はそっと俺の肩に手を置くと、独白するように口を開いた。


「それでね? きっと……それはアタシもそうなのよ――」


 メルクオーテは視線を落とす。

 まるで、ここにいない誰かを見つめるように。


「――だから、アタシも、もう悩むのをやめるわ……」


 彼女の唇の動きは、まるでこどもの頬に口づけを落とすような優しいもので、語った言葉は……メルクオーテの決意を表していた。


 しかし――


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