第75話 123回10日目〈5〉S★0

「わぁ……メルメル料理できるのねっ」


 包丁を使って野菜を薄くスライスするメルクオーテを見て、サクラは目を輝かせる。

 メルクオーテは熱い視線を送られ、頬を赤らめると「おおげさよ……」と、泡みたいにやわらかな文句をこぼした。


「ただ野菜を切ってパンに挟むだけでしょ?」


 そう言って、彼女は切った食材を薄切りのパンで挟み、大皿へと盛っていく。

 確かに、メルクオーテの言う通りそれは単調な作業かも知れない。

 しかし、今まで彼女は調をする所を見せたことがなかったので、その姿は新鮮だった。

 いつもの彼女は魔導を使って手早く済ませてしまうからだ。

 水をかけると膨らむパンや、ひとりでに動く調理器具が食事を作っていく様は、それはそれで見ごたえがあったが……。


「うまいもんだな」


 エプロンを着けたメルクオーテが、てきぱきと料理を作り上げていくのは、これはこれで見ていられる。

 彼女はそれくらい手際が良く、出来上がったサンドイッチが平積みされていく様子は見ていて子気味がいいのだ。


「あ、あんたまで……ばかじゃないの?」


 メルクオーテはそう言うのだが、俺はともかくサクラは少し事情が違う。

 サクラにとって、料理が目の前で作られると言うのは初めてのことだ。

 故に、彼女はにぎやかに口を踊らせることもなく、ただひたすらパンに食材が挟まれていく様子を、黙々と見ていた。


 それはもう、真剣に。


 それから、完成したサンドイッチを一口サイズに切り分け、バスケットに詰めていくメルクオーテに、俺はふと訊ねてみる。


「しかし、なんで急に料理を?」

「な、なによ? いけない?」


 彼女はエプロンの紐を解き、それをたたむとテーブルの上にそっと置いてから、明後日の方向を向いて、くすぐったそうに告げた。


「一応、お金取るんだもの……きちんとしたものを出さなきゃ、でしょ?」


 それが、先程の領収書のことだと気付く。

 メルクオーテは、妙な所で律儀だなと、俺は口元を隠して笑った。

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