第76話 123回10日目〈6〉S★0

 サンドイッチを詰め終ると、メルクオーテは俺に二つのバスケットを手渡した。


「これは?」


 受け取った片方を軽く持ち上げ訊ねる。

 すると彼女は、小さい方を指差し「こっちがあんたの」と答え、続けて「間違えないでね?」と念を押した。


 直後、バスケットの中身を確認してみると、どちらもサンドイッチが入っている。

 ただ、若干中身の具材に違いがあるようだ。

 しかし、それはわざわざバスケットを分けねばならないことだろうか?

 そう考えながらまじまじとサンドイッチを見つめていると、メルクオーテから「はぁ」とため息が聞こえた。


「あんた、ホント鈍感ね」

「と、言うと?」

「言うなれば除去食よ。除去食。あんたが食べても転移しないはずの食材で作ってあげたの」


 その言葉で、俺はようやく納得する。

 そんな「ああっ」と頷く俺を見て、彼女は頭を抱えた。


「たくもう……こっちはまだまだあんたに貸があるんだから。どっかいかれちゃ大損なのよ?」

「ああ。気を遣わせるな」

「なっ――ばかじゃないのっ、気遣いとかじゃないし!」


 ぶんぶんと手を振って慌てふためくメルクオーテから、俺は一旦目線を外す。

 そして、バスケットに水筒を詰め込んだ時、ふと思い至った。

 もしかして、今までも彼女は、こうして食事に気を回していてくれたのか? と。

 再び、メルクオーテに目線を戻すと、彼女は「ばか、ばかじゃないの」とぶつぶつこぼしながら調理器具を片付けていた。

 そんな、不機嫌な少女への感謝を胸に抱いていると、背後からどんっと衝撃がぶつかる。

 振り返ると、どこから見つけてきたのか、真っ白なワンピースと大きなつばの丸帽子を身に着けたサクラが「にひっ」と笑い、俺に抱き着いていた。


「サクラ? どうしたそれ?」

「えへっ。良いでしょ? メルメルの乏しい衣装ダンスの中から見つけたの」


 その一言にメルクオーテが振り向く。

 直後、彼女が文句を言い放つ前に、サクラは声を大にした。


「さっ、早くおでかけしましょっ」

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