外出-気分転換-

第71話 123回10日目S★0

 サクラの修繕は、髪を染め直すことで無事完了したらしい。


 以来、メルクオーテは俺の体質の解析、もとい低コストでの異世界転移術の確立のため、工房に引きこもっている。

 その間、俺はメルクオーテに対しての様々な対価を支払うべく、サクラと共に労働に勤しんでいたのだが――


「ねぇ。メルメル! 私にも魔導を教えて? ねっ? いいでしょ?」


 ―—訂正。

 サクラは労働らしい労働をしていなかった。

 彼女は隙あらばメルクオーテに抱き着き、邪魔をすることにご執心だ。

 無論、本人に邪魔をするという意識は薄いのかもしれない。


 だが、今もサクラは、俺から採血した血を顕微鏡に似た魔具で覗くメルクオーテの首に手を回し、彼女に抱き着いて耳元でわがままを囁いている。


 メルクオーテの肩がわなわなと怒りに震えているのが、視界の端からちらと見えただけでもわかった。

 それから、しばらくもせず。


「はあぁ」


 メルクオーテは大きなため息を吐いて、顕微鏡の隣に突っ伏した。

 まるで風船が破裂する前に空気を抜かれたごとく、である。


 だが、その程度のことでサクラがメルクオーテから腕を解く訳もなく、彼女はメルクオーテに重なるようにして背を曲げることになった。

 その表情はなんとも嬉しそうに、にやにやしている。

 直後、メルクオーテが疲れ切った声で、サクラに話しかけた。


「もう、サクラぁ。何度言えばわかるのよ。プラチナドールは魔導を使えないんだって」

「えーっ、そんなのずるいじゃない。メルメル、私にいじわるしてるでしょ?」

「してる訳ないじゃない……本当のことなんだってば。もぉ、どーしたら諦めるのよぉ」


 ぐったりするメルクオーテをよそに、サクラは指先を唇にあて、虚空を見つめて「うーん」と悩み始める。

 その表情から察するに、本当はとうに魔導なんてさほど興味もないんだろう。

 ただ――


「そうね。私、三人でおでかけしたいわ。そしたら諦めてあげる」


 ―—彼女は、メルクオーテ創造者に構ってほしいだけなのだ。

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