第68話 123回6日目〈4〉S★2

 しかし、メルクオーテの気遣いは素直に受け容れるとして、何故サクラの髪色がピンクなのかはやはりわからない。

 メルクオーテは、サクラ自身が希望したと言ったが。


「それで、何故サクラの髪色はピンクなんだ?」


 再びの問いかけにサクラは首を傾げる。

 重ねて「その髪の色のことだよ」訊くと、彼女は急に頬を膨らませた。

 今ので俺は、サクラの機嫌を損ねたらしい。


「な、なんだよ?」

「タケって、案外鈍いのね」

「どういう意味だ?」


 サクラの言葉が理解できず、俺は目線でメルクオーテに助けを求める。

 すると、彼女は口元を手で隠して笑いながらヒントを出してくれた。


「ばかね。その色、ぴんくじゃないのよ」


 呆れたようにやわらかく頬を緩めるメルクオーテ。

 だが、俺は未だに意味がわからず、彼女を見つめ返して首を傾げる。

 その途端、メルクオーテは肩をすくめ、そっと口を開いた。


「それ、サクラ色、でしょ?」


 この一言は、電気を流すように一瞬で俺に全てを理解させる。

 そして同時に、ナイフを突き立てたような痛み、罪悪感を胸に抱かせた。


「もう、本気で気付かなかったの?」


 俺は、拗ねたまま訊ねるサクラに、胸のそれを悟られぬよう表情を作る。


「すまん。気付かなかった」


 だが、取り繕った俺の態度に何か察したのか、サクラは急に不安がって眉を下げた。


「もしかしてこの色、桜に似てない? 私、間違ってた?」


 しょげかえるその姿……彼女の顔は、目に入れると胸を締め付けてくる。


 俺はそっと彼女の耳元に指先を伸ばし、髪を少しだけ手に取った。

 サクラの髪は、指先に触れるとさらさらとやわらかにこぼれ落ちる。

 それは、まぎれもない桜の色だ。

 淡い、赤と白を優しく交じり合わせた、故郷を思わせる色。


「悪かった。合ってるよサクラ。お前の髪は、綺麗な桜色だ」


 そう謝罪を織り交ぜて告げると、サクラは嬉しそうに表情を崩す。


「よかった……」


 彼女の、心底ほっとしたよと語るような笑顔は、ひどく俺の胸をかき乱した。

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