第55話 123回1日目〈5〉S★1

 それから、少女は俺を支えたまま体の向きを変える。

 視線の先に、ついさっき俺が飛び出したばかりの部屋が見えた。


「待ってくれ、ベッドに戻すつもりなら先に」

「わかってるわよ」


 俺が口にする前に彼女は答え、途端にため息を吐く。

 続けて少女は「あまり寄りかからないでよ?」と耳元で聞かせた。


「連れてったげる。あんたのお人形さんのところにね」


 その後、俺達は歩み出し、ベッドがあった本だらけの部屋を通り過ぎてその先に広がるもう一つの通路を奥へと進んで行く。


「あんた、賭け事には向かないわね。それかひどい方向音痴」

「……どうやら、そうみたいだ」


 苦笑する少女に言葉を返し、俺は彼女に連れられながら、もう一度あの子と出会えることを願った。



「ここよ」


 短く告げられた声に顔を上げると、通り過ぎてきた扉と同じような扉があった。

 だが扉の上部には何か彫ったような印があり、おそらく少女はこの記号のようなもので各扉を区別しているのだろう。


「少しの間、自分で立てるわね?」


 訊ねてきた少女に俺が頷くと、彼女はそっと俺から手を離し扉の前に立つ。


ムグゥロ開け


 そして、彼女がを口にした時、扉はガチャリと音を立てひとりでに開いた。

 その事実を、俺は静かに受け入れる。

 そうだったように。

 しかし――


「この世界には、魔法があるのか?」


 ――魔法それは百を超える転移を経験して、数度しか見かけなかった代物だ。

 疑問をこぼす俺に、少女は自慢げな笑みを返した。


「もちろん。それもここにあるのは他世界と比べて先進的な魔導技術よ。貧乏な転異者さん」


 そして、彼女は俺を扉の先へと案内する。

 そこは、中央に巨大な透明の筒が置かれた部屋で――


「……ヒサカ」


 ――その透明な筒の中に、俺はヒサカをみつけた。


 少女の手を解き、ゆっくりとヒサカへと近付いていく。

 筒の中で彼女は、眠ったように瞳を閉じていた。


 栗毛色の優しいブロンドの髪を……まだらに、灰のような銀色に染めて。

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