第53話 123回1日目〈3〉S★1

 彼女の笑みに影が差す。


「ええ、だから。現金でなくても珍しい鉱石とか――」

「それも、期待できるものはないだろうな」


 そう断言して俺はポケットに手を突っ込み、半ばやけくそ気味に全財産ポケットの中身を手の平に載せ広げて見せた。

 すると、少女はさぁっと顔を青ざめさせ、手に持っていた片眼鏡を床に落とし――


「ふっ、ふざけないで!」


 ――毛を逆立てた猫みたいな声をあげ――


「あんた一度の転移にどれだけお金が掛かると思ってるの! それがっ! 百度は転移をしてる人間の有り金が……たった、これっぽっちっ?」


 ――直後、彼女は今にも俺をひっかきそうな手で俺の財産を指差し「ひぃ、ふぅ、みぃ……」とゆっくり数え始め――たかと思えば――


「ゴミじゃないっ!」


 ――と激昂した。


「嘘っ! 信じないっ! バッカじゃないの! アタシが、大損だなんてっ……」


 その後、少女はしゅんと肩を落としてその場にへたり込む。

 あまりの落胆ぶりに、俺はいつの間にか彼女に哀れみを抱いてしまった。

 しかも、そのしょげ込んだ肩に浅はかにも自分を重ねてしまいそうになる。


「すまん。だが、俺も望んで転移を繰り返してる訳じゃ――」


 だが、少女は勢いよく顔を上げ、ぎろりと燃えるような目線を俺に向けるなり悪態を放った。


「あんたの事情なんて知らないわ! 意地でも対価は払ってもらうから!」


 俺は彼女に呆れながら、どこか義務のようにも感じつつその方法を訊ねる。


「どうやって? 金目のものは本当に持ってないぞ?」


 すると、彼女はわなわなと震わせていた唇を開き――


「いいわ。じゃあ、あれを寄越しなさい……」


 ――渋々とそんな言葉を紡いだ。


「あれ?」


 しかし、俺にはそのが何を差すのかわからない。

 首を傾け訊ね返す俺に、彼女は呆れたと肩をすくめる。


「とぼけるの? あんたが連れて来たあのしつけのなってない悪趣味な少女人形のことよ」


 直後、俺は立ち上がり――


「ちょ、ちょっと?」


 ――体を引きずりながら部屋の外へと駆けていた。

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