不穏-ヤシャルリア-

第36話 122回111日目〈24〉S★3

「何とでも言うがいい。が、少しばかり訂正させてもらおう。私の名はヤシャルリアだ。ヤシェーリアと言うのはだろう。お前には、どちらの方が聞き取りやすいかな?」


 くすっと口元を緩めたその笑みに、俺は引っ掛かりを覚える。

 奴は今、と言ったのか?

 それは俺のこと呪いや異世界の存在を知っているということじゃないのか。


「お前――」


 ――何を知っている。

 そう問い詰めようとした時、ヤサウェイの声が被さった。


「なあ。正直、君の名前なんてどうでもいい。それより、はっきりさせたいことがある」


 彼は灰色に染まる腕を押さえつけながら、今にもヤシャルリアに飛びかかりそうな顔つきで訊ねる。


「この灰色の腕。そして、あの灰褐色のゾンビは、君の仕業なんだな?」


 すると、ヤシャルリアは何を今更と軽く肩をすくめた。


「そうだ。だが、お前達にけしかけたのはゾンビではない。あれは私が加護を与えた神聖な闘士だ」

「闘士、だと?」

「ああ。恐れを知らぬ死の束縛の中で戦い続ける美しい闘士さ」


 そして、奴は不敵に笑う。

 まるで、ヤサウェイを炊きつけるかのように。


「今にお前もそうなる。その体を美しい灰に染めて。その女と一緒にな」


 ヤシャルリアがそう答えた途端、ヤサウェイは地面を蹴り上げて奴に飛びかかった!

 

「そんなことを! よくも堂々と言えるものだなっ!」


 彼は利き腕で灰色の腕からサーベルを柄を奪い取り、そのまま片腕で奴めがけて刀身を振り上げる。

 しかし、ヤサウェイがサーベルを振り下ろした直後、刃はヤシャルリアの寸前に迫ったところでぴたりと静止した。


「なっ?」


 いつの間にか灰色の腕が柄をがっちりと掴み、彼の攻撃を阻害したのだ。

 だが、それだけでは終わらない。


「まだ、お前の体は私への忠誠を知らんのだな。その、灰の腕以外は」


 灰色の腕はぐるんとサーベルを持つ手を返し、天を仰いでいた剣先を地面へと向け――その刀身でヤサウェイの脚を串刺しにした。

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