第6話 122回109日目〈5〉 S★0

「こいつを新調してくる」


 ズグゥが手に持つのは簡素な片手剣だ。

 しかし、巨漢の彼が持つとそれはまるでバトルナイフにさえ見えた。


「もう刃こぼれしちまったからな」


 ズグゥが凶悪そうに笑って語るこの瞬間だけは、まるで武器を壊すことを楽しんでいるみたいだ。


「もう少し丁寧に扱ってやれよ、この馬鹿力」

「がはは! にだけは言われたくないな!」


 豪快に笑って彼はバシバシと俺の肩を叩く。

 これが痛いなんてもんじゃない。


「あと、武器を新調した後はまたいくつかギルドを回ってみるつもりだ」


 言うなりズグゥは大口をにやりと歪ませた。

 それは彼の「集合に遅れるかもしれん」という意思表示に他ならない。

 直後「またぁ?」と、呆れたようにヒサカがげんなりと声を出した。


「お前も酔狂な趣味をしてるな」

「がはは! 何、おめぇにだけは言われたくねぇよ。それに、情報は生きるのに多すぎて困ると言うこともないからな」


 彼の持論に俺は反論せず「じゃあ、また後でな」と言って去るその背中を静かに見送る。

 ヒサカも「遅れないでよー」と念を押すだけで、ズグゥの趣味……そして、集合時間に遅れるかもしれないということを強くとがめはしない。

 実際、彼の情報収集癖に助けられる場面も多いからだ。

 俺は大男の背中がギルドの外に消えると、再び手帳に視線を戻した。

 すると――


「ねぇ、タケ? その……今日も、するの?」


 ――どこかもじもじと、言いよどむようにヒサカが訊いてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る