その3

※これはあくまでも個人的見解です。



高尚な作品がいい作品ではない。

高尚な作品が面白い作品ではない。

高尚な作品が売れる作品ではない。


低俗な作品が悪い作品でもない。

低俗な作品が面白くない作品でもない。

低俗な作品が売れない作品でもない。


自分にとっていい作品が他人にとっていい作品ではない。

他人にとっていい作品が自分にとっていい作品ではない。


純文学であろうと官能小説であろうと歴史物であろうと伝奇であろうとSFであろうとファンタジーであろうと、それこそ一般小説であろうがライトノベルであろうがそこには何の違いもない。

高尚だ低俗だと書いたが、そもそも作品に貴賤などない。

読んで、自分がどう感じるか、だ。

好きな物は好き。面白いものは面白い。それでいい。

ただ、それには弊害もある。


自分の好きなものこそが一番だと勘違いすることだ。


これは、いつでも何処でも誰にでもよく見られる。

個人で済む話なら何の問題もないが、これに仕事が絡むと面倒な話になる。

勘違いをしないよう気をつけながら、また異なる複数の判断基準が必要となるからだ。

面白いが、それは個人的に面白いのか一般的に面白いのか。

いい作品だが、それは個人的か一般的か。

変わった切り口の作品には、将来性を鑑みた先見性も要求される。自身の精一杯のセンスや経験を総動員して。

少し違う観点では、盗作の問題はいつ頃からか必ず頭の隅にある重要事項だ。

そして、どうしても外せないのが、売れるか売れないのかという基準だ。

出版業は慈善事業ではない。商売なのだ。

売れなければ意味がない。企業として存続することができなければ、売りたい物も売れなくなるし、恥ずかしながら売りたくない物を売らざるを得なくもなる。

そんな中で流行となり、今も人気を維持し続けるライトノベルの貢献度は非常に高く、今後にも期待できるだろう。特に定期的に現れるブームは、時折、その意外な着眼点には驚かされる。しかしライトノベルは包含するジャンルが多く、作品数も膨大だ。しかも、その括りが余りにも曖昧で玉石混淆の現状は、今後に吉と出るのか凶と出るのかギャンブル的で、また、ブームの盛衰が早すぎるため作品、作家の入れ替わりには留意すべき点がある。


ともあれ、だからといって売れる売れないだけに固執するようなことは出版社に許されていないのも事実だ。

書籍には言語による芸術である、文芸という面がある。

売れようと売れまいと、いい物はいいとして世に提示する義務がある。

何を偉そうにと思われるかも知れないが、これは出版社の責務なのだ。

ただ、これが難しい。売り上げ至上主義の今、文芸の優先順位は決して高くない上に、得てして、芸術というのは理解されにくく、理解しにくい。

有名な文芸作品を読んで、意見が一つにまとまることは多く、容易い。先入観によるものだが、多くの場合間違いはない。

無名の文芸作品を読んで、その評価をするのは文芸に精通している者でも至難の業だ。

担当も拙速な意見は避けることが多い。自然と時間と労力が掛かる。正直、好きでない者には苦痛とさえ言える。

また、受賞した後や著名人の意見、海外での評価などにより、後追いで作品が知られて漸く評価が上がることが少なくない。埋もれた作品が評価されることは喜ばしいことなのだが、刊行時に評価が得られるか否かがネームバリューに大きく左右されてしまうのは正直遺憾に思う。何しろ、その作品生命を左右する最初の関門が、発売後二週間の売り上げなのだから。宣伝をする出版社の責任も重大なのだが、この件についても予算が絡んでくるので実に世知辛い。

これは文芸の話ではないが、以前、ハリーポッターの著者であるJ.K.ローリングが名前を伏せて刊行した探偵小説が、当初売り上げ1500部、AMAZONランキング5000位程度だったのが、正体がばれた途端にランキング1位に躍り出たのはご存じかと思われる。

単純に内容で勝負することができない世界でもあるのは、なかなかに遣る瀬無い気持ちとなる。

不条理は世の常とはいえ、これらのことが作家の不利益とならないようにと願うのだが。


常々力不足を感じる。

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