2
「すごい……。
綺麗に無くなった怪我をしていた部分を見て、兵士たちは驚きの声を上げた。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫、大丈夫」
一番怪我が
「みんな、もう痛いところはない?」
マリアは最後の仕上げと言わんばかりに、兵士たちを見渡して聞いて回った。
全員、怪我に関していえば完全に直っているようで、皆一様に
それを見たマリアは「よし!」と満足そうに笑った。戦場でよく見ていた顔だ。
魔王としては、兵士が復活するので毎度苦しい思いをしていたが……。
「マリア様。ありがとうございます。これで皆、無事にたどり着けそうです」
リーダー格の兵士がマリアにお礼を言うと、それに続いて他の兵士たちも口々にお礼を言い始めた。
お礼を言われ慣れているはずのマリアは、なぜか照れたように手を振るだけだ。
「そうだ、みんな。お腹空いているでしょ? もう暗くなるし、このまま森を進むのは
家……? 家と言って良いのだろうか?
まぁ、作りかけだが、家を作っているのだから間違いはないが。マリアは兵士たちに俺たちの家に来るように
しかし、兵士たちは困ったような顔で俺の方をチラチラと見ていた。
俺が兵士たちをよく思っていないのは、今までの流れで理解したのだろう。それに合わせて、俺たちが魔法使いだということが原因だ。
聞けば、この世界にも魔法使いという存在は居るそうだが、能力がある魔法使いは国に
また、能力が低くても町の医者――魔法医をしているんだそうだ。
七人居る兵士たち全員の傷を綺麗に治した――つまり、
「かまわんよ。そんなに良い物を食べさせられるわけではないが」
まだ野菜もできていないし、あるのは行商から買った
怪我を治したなら、次は体力をつけてもらいたいが、体力をつけるには栄養に
それでも、今の彼らにとってはまずまずのごちそうだろうが。
★
――保存食くらいしかないと思っていたけど、家の畑には青々とした野菜たちが元気いっぱいに葉を
本で調べながら種を用意し
「魔法を使ったのか?」
「
「マリアがそれで良いならいいんだ」
作物を育てるのに、俺の様に魔力を送り込むより、神の
俺にはどうでもいい話だったが、人間からしてみれば祝福が出来る人間というのはかなり特別だったはずだ。それを作物にするなど
この農作物について本を書いた奴は、かなりぶっ飛んだ奴だったのかもしれない。
――話はそれたが、畑に
そこで問題となるのが、兵士たちは専業兵士という訳ではなく、
まぁ、魔法使いだから、と納得してくれるだろう。
★
「家は……これですか?」
兵士の内の一人が、作りかけの家を見て
「あぁ、そうだ。今はこんなみすぼらしい状態だが、その内にできるだろう」
目標としては、一週間以内だ。外で過ごすことにそれほど不自由はなく、それに今は屋根の代わりに
「この屋根はなだらかに作ろうとしているようですが、それは何かを
「特に、そういった
「この
「なるほど、そこまでは考えなかったな」
家とはこんな形だろう、という頭にある設計図だけで
町中であれば落ち葉が屋根に降り積もるなど考えなくてもいいから、こういった屋根になるんだろう。人から言われて、初めて思い
その日の夜は、文字通りできたばかりの野菜をたくさん入れたスープをメインとして、兵士たちに出した。
ヒョイの時と同じように、体の傷はすぐに
その辺りは、人の中で戦ってきた勇者マリアの方が
夜となれば、俺が持って来た
なるべく
静かな森に
そして、次第に兵士たちの声に
それのほとんどが、村に残して来てしまった家族のことだった。戦争が終わっていないのに家に戻っては、村中の
逃げてきたことがバレれば、
ならば戦場で死んだものとして、家族の前から姿を消すしかない。
相手が魔族や化け物であれば、逃げ出した彼ら兵士たちを、マリアは叱責していただろう。彼らが逃げれば、その後ろには
しかし、相手は同じ人間なのでマリアは無いも言わなかった。彼女は、人と戦うことが無かったからだ。共通の――魔族という明確な敵が居たから。
「えと……。私がどうこう言えないけど、もし村に住めなくなったらここに来ればいいわ」
「えっ?」
突然の申し出に、兵士だけではなく俺も驚きの声を上げた。
「私は故郷がないからこう思っちゃうけど、もうダメだと思ったら故郷を捨てることも大切だわ。もちろん、忘れないように注意して最後には戻って来られるように」
それはまさに理想論だ。相手が魔族だった場合に通用する話で、こと人間に至っては
それも、相手に分かる言葉を
「そう……ですね。ありがとうございます」
必死で絞り出した言葉だと兵士たちも理解してくれているようで、理想論であるマリアの言葉に、兵士たちはお礼を言った。
「セシル様も、ありがとうございます」
「いやなに。俺が言うのも何だが、時には逃げることも大切だと思う」
逃げた奴が
「それに、ここでのルールを守るのであれば、来ることは
今度は、マリアも驚く番だ。自分で言っておいて、俺が同意したら驚くのか。
「俺たちの力は、その身で分かっただろう。そして、私たちは旅人だ。来るなら家も、畑も用意しすぐに家族で住めるようにしておいてやる。だが、俺たちのことは今も、これからも口外せぬように」
あの村ていどならいいが、この七人が村に帰るなり途中の人間に話すなりしたら、すぐに有名になって静かな生活が出来なくなる。
これからどう行動していくのか分からないが、今は静かに暮らしたい。
「わっ、分かりました。ありがとうございます」
話を
★
俺とマリアはできたばかりの寝室へ。兵士たちは、それぞれできかけの部屋で
そして兵士たちは、三日後にここを出ていった。二人は、故郷を捨てられないから戦場へ戻ると言い、五人が家族を連れてやってくるんだそうだ。
その内の一人は、家族――というか結婚を約束している相手がどうなるかで人数が増えるかどうか分からない、と言っていた。
とりあえず、家は五つ用意すればいいようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます