「ただいま」


 自宅(予定地)に戻ると、野ウサギを追いかけていったマリアがすでに帰って来ていた。


「おかえり~」


 何か楽しいことがあったのか、マリアは笑顔で俺が帰って来たことを喜んでくれた。

 しかし、手は何かをゴソゴソとやっている。何をしているのだろうか?


「ねぇねぇ、セシル! この世界って凄いのよ!」

「どうした? 何か面白い物でも見つけたか?」

「そうなの! 前の世界だと、空から降ってくるのは雨や雪だったけど、この世界では土も降ってくるの!」


 明るく、今さっき起きた出来事を話してくれるマリア。でも、ごめん。それ、俺のせいだ。


「大きなかたまりも落ちてきたから、おうちの屋根を作る時は、頑丈がんじょうに作らないといけないわね。他のおうちはどんな風に作っているのかしら? こっそりのぞきに行った方が良いかもしれないわ」


 慣れない悪天候あくてんこう(?)に喜ぶマリアに、その原因が俺だとなかなか言い出せない。

 その代わり、笑顔で「近いうちに、見えた村に行こう」とだけ伝えておいた。


「そろそろお昼だから、早めに帰って来てくれて良かった」


 お昼には少し早い気がするけど、今からゆっくりと料理をすれば、ちょうどいい時間になるだろう。

 昨日の夕食はソーセージだったから今日は何にしようか、とリュックの中をあさろうとすると、その手をマリアに止められた。

 どうかしたのか、とマリアを見ると、いたずらっぽい顔でニンマリ・・・・、と俺を見てきた。


「どうかしたか?」

「じゃーん!」


 聞き返す俺にマリアが差し出して来たのは、綺麗きれいに皮がはがされれている二羽の野ウサギだった。

 内臓ワタは取られているが、姿がまだウサギの形をとどめているためすぐに分かった。

 っていうか、うん。さっきマリアが「可愛い」と言って追いかけていった野ウサギだよな?


「おぉ、でかした。この世界で初めての獲物えものだな」


 野ウサギとたわむれに行ったのかと思ったら、食料としてって来ていたことに少々引いてしまったが、食料を獲って来てくれたことには変わりないので、感謝の気持ちを伝えた。

 俺の魔法である武器庫は、中は時の流れという概念が無いので、保存食も劣化れっかすることが無い。

 とはいえ、万が一の時にそなえて備蓄びちくはしておきたかったので、なるべく早い内から食料を現地調達げんちちょうたつしたいと思っていた。


「お昼に一羽食べて、夜にも一羽食べればいいよね?」

「それがいい。夕食分の一羽は、俺の武器庫にしまっておくか」


 先もいった通り、武器庫に入れておけばくさることなく保存することができる。

 野ウサギを受け取ろうと手を出す俺に、マリアは再びニンマリ・・・・と笑顔になった。


「ダメだよ~。できることから、コツコツとこの生活に慣れないと~」


 マリアは、まだ魔法制限生活を続けるつもりのようだ。かなり雑な感じかしないでもないが、ここはマリアに合わせるとしよう。


「この時期じきなら多分大丈夫だと思うが、それでも生はこわいな。遠火とおび乾燥かんそうさせるか……いや、どうせ夕食で食べるなら、一緒に焼いて置いておいてもいいな」


 その方が一度に調理できて、夕食の調理の負担ふたんるだろう。

 しかし、それも気に入らないのか、マリアは「チッチッチッ」と人差し指を、俺の眼の前で振った。


「こっちの植生しょくせいって向こうの世界と似ているらしくって――じゃん!」


 差し出されたのは一枚の大きな葉。紫と緑が入り混じった、気色の悪い毒々どくどくしい色だ。たぶん、食ったら死ぬ系の毒がふくまれていると思う。


毒虫草どくむしそう!」

「名前からしてダメな気がするが、それって大丈夫なのか?」

直接ちょくせつ食べなければ死ななないわ。直接、ね」


 この葉っぱは名前負けしない能力を持っているようだ。


「それで、その毒虫草をどうやって使うんだ?」

「この葉っぱでくるんでおけば、くさる速度が遅くなるの。猟師りょうしさんから教えてもらった方法」

「でも、食べると死ぬんだろ?」

「葉っぱを直接食べなければしなないわよ。確かに、こうやって保存したものを一気に、大量に食べたら体調不良になるそうだけど、夕食にウサギ一羽食べたくらいじゃどうってことないわ」


 話を聞くと、マリアは猟師から教えてもらい、それ以来ずっとやっている方法だそうだ。

 たくさん、という量は人それぞれ違うと思うが、普通の人であってもウサギ程度の肉量であれば、いっきに十羽くらい食べても問題はないそうだ。


「気を付けないといけないのが、この葉っぱを好んで食べる虫が居て、その虫を間違って食べちゃうと葉っぱを食べたのと同じになっちゃうから結果的けっかてきに死んじゃうんだって」

「なにそれ怖い」


 毒草を食べる虫が居り、それが毒草を食べることで毒虫へと進化するので、この植物の名前は毒虫草らしい。なかなか興味深い話だ。


「それにしても、この葉っぱが毒虫草だって良く気付いたな?」


 毒々しい色をしているといっても、この毒虫草と似たような色合いの葉を持つ植物はたくさんある。

 そこにある、折れてしまい痛んでしまった葉っぱも似たような色合いをしている。

「見た目が似ているってのもあるし、捕まえた野ウサギに試しに食べさせてみたら泡吹あわふいて死んじゃったから『これはッ!』て気付いたの」


 間接的かんせつてきに毒虫みたいになっているけど、少量だから大丈夫なんだろうか?

 俺たちは魔王と勇者だから、普通の人間とは体の作りが違う。多少……それ以上の毒であっても死ぬことはないだろう。

 しかし、人に料理を出すときは注意しなければいけない。体が頑丈がんじょうなのも考え物だな。

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