「なら、他の奴を使うか」


 できるだけ付属効果のない武器を、と武器庫をあぐっていると、マリアから一本の大剣たいけんを渡された。

 それは、フーリンデのつるぎという大剣だった。慈悲深じひぶかき天使のフーリンデが使っていたとされるつるぎ


「これなら変な効果も無いし、切れ味もすごく良いからおすすめよ」

「ありがとう」


 俺と対立する位置いちに居る天使のつるぎを、魔王である俺が使って良いものか逡巡しゅんじゅんしたが、今の持ち主のマリアから貸与たいよされるのだから「良いか」と納得して受け取る。


 受け取るさいに、俺が魔王だから手に取った瞬間しゅんかんに腕がはじけ飛ぶんじゃないか、と戦々恐々せんせんきょうきょうとしたが特にそのようなことは無かった。

 大丈夫なことを確認すると、手始めに近くにある大木を横一閃よこいっせんした。


「おぉっ、これは切れ味抜群ばつぐんだな」


 正直、天使の持つ武器は見た目が派手で美術価値は大きいが、切れ味があってないような物なのであまり好きになれなかった。実用を無視して作られているからだ。

 とはいえ、そんな実用を無視した物でも強力な剣であることには変わりないので、敵側まぞくとしてはナマクラの方がありがたかったがな。ただ、つるぎに関してそれなりの知見ちけんがある者としてはなげかわしい限りだ。


 ザックザック、と昨日マリアがぶっした竜牙槍りゅうがそうを中心として、円形に木を切り倒していく。

 木を切った後に出る切りかぶは、隆起りゅうきの魔法で根っこからり返してやった。後で気付いたことだが、強制的にち木となった木は燃えやすくまき丁度ちょうど良かったので、根っこは全て薪となった。


「これを綺麗きれい丸太まるたにして積み上げれば良いのね?」


 知ってる知ってる、とうれしそうに話すマリアが言っているのは、たぶんログハウスのことだろう。


「いや、今回は勉強もねて普通の家を作ろうと思う」


 しかし、俺が今から作ろうとしているのは一般的な家屋かおくだ。ある程度ていどうすく切った板を張り合わせかべとして作っていく方の。

 森の中であれば材料が問題なくそろうけど、他の土地では木がどれくらいあるか分からない。なので、大よそでいいから家を作るためにはどれくらいの木材が必要か知るために、まず初めに一般的な家屋を作りたかった。


「勉強熱心ね。私には真似まねできない」


 ペロッ、と悪戯いたずらをした子供のように舌を出してマリアはおちゃらけた。

 マリアも勉強すれば俺と同じかそれ以上になれるはず――そもそも、幼少期は俺より頭が良かった――なので、それはきっと本人のやる気だろうと思う。


 代わりに、俺の苦手な料理がマリアは得意なので、二人一緒で丁度いいのかもしれない。

 余分よぶん枝葉えだはを打ち払い、昨日マリアが言った「自分でできることは自分たちでやる」にはんしてしまうが、魔法を使って木が持っている余分な水分を強制的に抜いていく。


 これをやらないと、板にした後に反り・・が発生したり割れの原因になったりする。

 なるべくマリアに見られないように――、と注意しながら魔法を使おうとすると、当のマリアは俺が打ち払った枝葉を、ナタで薪に丁度いい長さに切っていた。


  そこまでは良かったのだが、切った枝葉をまとめると魔法をかけて、まさに今俺がやろうとしていた水分を抜く工程を行っていた。


「まっ、良いか」


 たぶん、マリアは忘れているか普段からあのように薪を作っていたので、気にすることなく魔法を使っているんだろう。

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