3
木の枝と枝にロープを張り、そこに布を
空は雲が少なく、晴れといっても問題ないくらい
そうマリアに話すと、木の上からは
その内容物――たとえば、毛虫や鳥の
「食事はどうしよう?
「だいじょうぶ。そんなにも多くないが、
布を出すときに一緒に外へ出していたリュックには、数日分の食料が入っている。他にもいくつか似たようなリュックがあるので、当分の間、この食料を食べるだけでしのげるようにしてきた。
「じゃあ、火がいるね。私、知ってるよ。木の板と
「魔法で起こせばいいだろ?」
「ダメダメダメ。せっかくだから、自分でできることは自分たちでやろうよ」
すでに俺の武器庫から色々と取り出した後だから、『自分たちでできること』の
一応、最終決戦まで色々と調べてきたので、マリアの言う火の起こし方――キリモミ式――はどうやればいいのか理解しているので、これならばすぐにでもできる。
「よし分かった。では、必要な材料から集めよう」
まずは
ジュウジュウ、とフライパンの上でソーセージがいい匂いを
そんな俺の痛みを知ってか知らずか、俺の隣ではマリアが
時が止まったように動かないマリアだが、ときおり
どうしてこうなってしまったか。それは、火つけに失敗したからだ。
キリモミ式に使えるような板や真っすぐな棒が、都合よくそこら辺に転がっているわけもなく、1時間くらい探したが見つかりそうになかったので魔法で火を点けた。
マリアは最後まで火を使うことを
一応は
「ほら、できたぞ」
フライパンを火からおろして、簡単に石を積んで作ったフライパン台に置いた。
あとは保温しておいた、マリア
魔王になってから自分で食事を作ることが無かったので、失敗が少ない――焼くだけで終わることが出来る食材を用意してきた。
予想外だが、ありがたいことにマリアが料理好きだったので、これから食事の内容には困らないだろう。――動けるようになれば、の話だが。
ほんの数時間前まで、魔王と勇者という立場で殺し合っていたとは思えないほど、
どうやって戦えばいいか、場所は、部下は誰を使うか。毎日、昼も夜も関係なく考えていた。おちろん、食事中も。
そこまでして魔族の未来を考えていた俺は、マリア一人のためにあっさりと裏切った。そのことに関して後悔はないし、逆に裏切らなければ
自分でも、これほど簡単に考えが変わるとは思っていなかった。本当に。
――何が良いたいかというと、とにかくビックリしたってだけの話。
「ねぇ」
そっ、と手が優しい温かな体温に包まれた。マリアが握ってくれたからだ。
「難しいことを考えるくらいなら、もう寝ようか?」
「そうだな。今日は色々あって疲れたから」
疲れているかもしれないが、
それでもマリアの言う通り、地面にひいた毛布の上に寝ころび、上から別の毛布をかぶった。
俺たちの力を本能で感じ取っていれば、森に住む
肉体的、精神的にダメージを与えてくる奴らを近づけさせない、絶対の壁だ。
「セシル――空」
「ん?」
マリアに言われて空を見上げると、満点の星空が広がっていた。
天体についてそれほど詳しくないが、知っている春終わりの星座が見つからなかったため、ここが異世界なのだと
しかし、さして
「こんなに落ち着いて星空を見上げるなんて、最近ずっとなかった。ずっと気を張っていて、他の人たちの
「だから、星空を見上げる余裕なんてなかった」と小さく
俺には星空を
だが、マリアが
「これからずっと、のんびりと見上げることができるさ」
「そうだね」
はふぅ、とマリアは小さくあくびをした。
「ちょっと、気が早いけど」
「うん」
「ここから旅に出たとして」
「本当に気が早いな」
まだ家どころか、住んですらいないというのに。
それに対し、マリアは「ふふっ」とおかしそうに笑い、続いて「本当ね」と言った。
「色々なところを旅して、知らなかったものを見て、世界を見終わった後に一番気に入ったところに住みたい」
「なるほど。俺たちには――」
と言いかけて止めた。あまりにも後ろ向きすぎるからだ。
だから、正しい言葉でマリアに伝える。
「俺たちにしかできない
だからこそ、普通の人間であれば
「じゃぁ、当分の目的は、気に入った土地を探す、ということで」
「うん。そうだね。
最後にマリアは、再び大きなあくびをして、「おやすみ」といって眠りについた。
毛布の下で、俺と手をつなぎながら。
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