5月13日の夜

 喉が渇いたので、近くにある自販機まで飲み物を買おうと外に出た。

 夜は霧に覆われていて、思わず身震いした。

 田舎の数少ない電灯の下に白い煙が見えており、その煙はのろのろと自分に近づいてきていた。

 自分はその煙から逃れるように、自販機へ早歩きで向かった。


 自販機の前に来た。自販機の光以外に見える光は月と遠くにある電灯だけだ。

 どれを選ぼうか迷っているほど心の余裕は無い。さっさといつも買うものを買って家に帰ろうと振り返る。


 目の前に煙があった。さっきまで自分は、その煙から逃れるように早足で自販機に向かっていた。

 でも、今向かうべき場所は家だ。家に向かうためには今来た道を戻らなければならない。

 つまりそれは、この煙と向かい合わなければいけないということを意味している。

 なぜ早歩きしていたのか?なぜ煙から逃れようとしていたのか?

 ちっぽけな自分と煙のそんな関係を、お月さまは遥か彼方から見守っていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る