5月11日の家路

 5月上旬。

 それは、春とも夏ともいえない微妙な時期である。

 だから、先人はこれを「晩春」や「初夏」として言い表した。


 今日は微妙な気象だった。先人はこれを「春陰」と表したらしい。

 少し肌寒い気温のところに生ぬるい暖風が吹いていた。その暖風は服の隙間に入り込んで、時折体を身震いさせた。

 しばらく歩いていると、春時雨が降ってきた。にわか雨なので大して降っては来なかったが、暖風に当てられて妙になった体温を冷やすには丁度よかった。


 日本には、「微妙」なものが視界にたくさん入ってくる。四季の間々もそのうちの1つだ。

 先人はこの「微妙」を、なんとか表そうと必死に考えたそうだ。

 その財産は今でも身近なところに残っている。

 「新春」「春月」「暮春」・・・こんな大まかなものはもちろん、春のある1日に使う「春昼」「春夜」「春雷」などなど。

 普通の昼、夜でも、「春」だというだけで何か感じるものが先人にはあったのだろうか。


 時刻は16時過ぎ。春陽はやや西に傾いていてもまだ元気で、空を水色に照らし、陸を黄色ががった白光で照らした。

 地球が出来て46億年。今日も1日が終わったと、太陽はそう告げていた。

 

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