3
バーゲン会場になる倉庫街までは特に何事も無く辿りつけた。中に入り、グレーゾーンではあまり見ない品々が陳列されていく様子を横目に、3人は長い説明を聞き終える。
「と、言う訳でして、明日から4日間お願いいたします」
説明の長かった中年男性。営業トークでもグレーゾーンの人間に頭を下げるという事は、グレーゾーンの人間を短期でも雇う事を禁止されている為。特に、バーゲンセールなどというある意味平和的な催しでは、表沙汰にせず伏せておく事が当たり前。
「私も買い物したーいー!」
ミサトが本音をふざけた様子でぼやく。和やかながらも明日に備えた、緊張感のある雰囲気だ。
「ミサト、無茶言わないで今日は帰ろうよ」
アズマが柔らかく諭す。
「分かってるわよ。それでは、明日からよろしくお願い申し上げます!」
ミサトは文句をブツブツ言いながらも、中年男性には元気良く挨拶をした。カスミは一歩下がった所から、笑って見ている。
「それじゃあ、帰ろうか」
オモテから出てすぐの、古い橋のかかる辺りを通りかかった時だった。
「来る!」
カスミが短く叫ぶ。ドンッ!と大きな爆発音。アズマとミサトを庇うように、カスミの腕が力強く2人の背中を押す。橋の下、川べりの草むらに、3人は転げ落ちる。
「5人ぐらい……闇改造体が3人、生身が2人。生身は遺伝子組み替え具合まで分からないから……援護射撃を!」
カスミは気配を感じていた。次の襲撃に備え、ダボっとした服から脇差しらしき短刀を引き抜き、小さな、けれど確かな声でアズマとミサトに告げる。
アズマとミサトも、小型の拳銃を構える。ヒュンと宙を舞う物体を、アズマが狙い打つ。空中で爆発音、燃え盛るそれは先ほどの爆発音とは異なるものだった。
「火炎瓶……?焼け出される前に旧車道へ!私が、迎え打つ!」
緩やかな坂になっている土手をサッと登り、襲撃をかけたらしき男達の姿を捉えたカスミ。
「用があるなら、出てきたら?あなた達の姿は、見えているのよ!」
安い挑発だと、カスミ自身も思う。が、感じた通りの人数の闇改造体が居るとしたならば、闇改造体だけでも姿を見せると踏んでの事。
闇改造体は、薬物や非合法遺伝子組み替えによる中毒者の慣れ果てである場合が非常に多い。その為か、思考が短絡的な者も多く、安い挑発にもすぐに乗ってしまう。彼らは何者かに利用された世界の被害者ではあるものの、はいそうですか、と、甘んじて殺される必要も無い。カスミは経験で知っていた。
ギチギチ……ギチギチギチギチ…………
嫌な音が、微かに響く。不自然に揺らめきながら、3人の男が近づいてくる。カスミは大きく一歩を踏み出し、二本の短刀をもって男達に斬りかかる。
ギギギ……ギィィ!
劣悪な金属を斬り捨てた、不快な音。斬り殺した筈でいて、血液はほぼ飛び散っていない。断面の殆どを、古びた機械のパーツが占めていた。
「生身の皮の中に、無茶な事を……」
ポツリ呟くカスミの声は、誰にも届かない。
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