record3 朝ごはん


何やら変な匂いに気づき、フミは目覚めた。

あたりの匂いを嗅ぎ匂いを特定しようとする。

煙の匂いだ。フミは慌てて飛び起きあたりを見渡した。するとフミの寝ていた後ろで、

ミカが焚き火をしていた。

「起きたか」

ミカは火に何処かから取ってきた木を焚べた。

「おはよう」

「ああ」

ミカはフミが起きてきたというのに木にする様子もなく、焚き火の火を大きくしようと奮闘する。

「何してるのさ?」フミはミカに問いかけた。

「見ればわかるだろ」

確かにその通りだ。だがフミが聞きたいのはそういうことではなかった。

「なんで火なんか」

「見てれば分かる」

そう言うとミカは焚き火の上にこれまた何処かから拾ってきた網をのせた。そしてその上に水を入れた紙の鍋を置く。

「燃えちゃうよ!」

フミが慌てて鍋を火から離そうとする。

「大丈夫だ」

ミカがフミを止める。鍋をじっと見つめお湯が沸けるのを待つ。

「よし」

プツプツと気泡が上がってくるのを確認すると、あらかじめ切っておいた野草をなべの中に投入した。フミはその様子をじっと見つめる。

葉がしんなりしてきたところで、具の量がお互い均等になるように、コップにスープを注いだ。

「冷める前に食え」

ミカがコップをフミに差し出す。

「これ食べられるの?」

フミが怪しげな目でスープを見る。

「当然だ」

ミカはフミの目の前にスープを置くと、自分のスープを食べ始めた。

「いただきます......」

フミはスープを恐る恐る口に入れた。もしかしたら美味しいかもというの期待を、少し抱いていたが、スープは案の定苦かった。

「にがっ」

フミは顔をしかめる。

「栄養満点だぞ」

ミカはせっかく作った料理に不満を言われ、少し腹を立てた。

「ミカちゃんこれよく飲めるね」

フミはコップを自分の正面の床に置いた。

「嫌なら飲むな」

ミカがフミからスープを奪う。

「飲むから飲むから!」

フミは慌ててスープをミカから奪いかえす。

どんな味でも旅の最中では貴重なビタミン源だ。

「マッチ持ってたの?」

「昨日出発前に買った」

ミカがマッチ箱を見せる。

「お金は?」

「盗んだとでも思ったのか?」

ミカが今度は財布を見せる。

「結構入ってるね」

フミが感心したように財布を見る。

「使えないのばかりだがな」

ミカは残念そうに財布をバッグの中に戻した。

「仕分けるからお金見せて」

フミがミカの財布を開げて、中を漁り始めた。使えるお金と使えないお金二種類を手早く分別していく。

「分かるのか」

「当然」

フミはあっという間にお金の選別作業を終えた。使えるお金はそこそこの量があった。

「半々くらいだね」

「こっちが使えないのか?」

ミカが片方の束を手にとって聞いた。

「うんそうだよ。多分お金なんだろうけど、もう使われてないね」

「そうか」

そう言ってミカは手に持った紙束を火の中に投げ入れた。

「ぁぁぁぁぁ何してるのさ!」

フミが悲鳴をあげる。

「どうかしたか?」

「ミカちゃん馬鹿なの!どうかしたか?じゃないよ!何してるのさ!」

「使えないんじゃないのか?」

「そうだけどさ、記念に持っておこうとか思わないの?」

「使えないお金なんて持っていても仕方ないだろ」

フミはミカに対して熱弁するが、ミカはまったく理解できないという様子だった。

「このミニマニストめ」

フミは悔しそうに言った。

「よく分からんが、悪いことしたな。すまない」

ミカが申し訳なさそうに謝る。フミはそんなミカを見るとなんだかこっちが悪いことをしたような気になってしまい責めるのはやめることにした。

「まぁいいか」

「じゃあそろそろ火を消すか」

ミカが立ち止まり火消しの準備を始める。

「ちょっと待って」

フミが何やら自分のリュックの中をほじくだす。

「これこれ」

フミは串となにやら白い綿のようなものが入った袋を取り出した。

「なんだそれは?」

「見てのお楽しみってことで」

フミはプスプスと白い物体に串を刺して行く。

「ほら、ミカちゃんも手伝って」

フミはミカに串を手渡す。ミカも見様見真似で串を刺していく。

「こうか?」

「そうそう。上手い上手い」

2人ともやるにつれてスピードが上がってゆき、すぐに30個ほどに串を刺した。

「こんなもんでいいかなぁ」

「こっからどうするんだ?」

「ミカちゃん夢中だねぇ」

「そんなことない」

フミのおちょくりにミカは顔を赤らめて目をそらす。

「それでこっからこうやって刺してってね」

フミは串を日から少し離したところに刺していく。

「あとは待つ!」

少し経つと白い物体から甘い匂いが漂い、表面がきつね色に変わってきた。

「焼きマシュマロっていうんだってこれ」

フミがそう言いながら串に刺したままマシュマロを一粒、口のに入れた。フミの口の中にじんわりとした暖かさと、フワッフワの甘さが広がる。思わず口角が上がる。

「甘いなぁ〜」

ミカも一つ食べる。口の中で甘さが溶け言いようのない幸福感が口の中に溢れる。

「美味いなこれ」

「甘いって良いねぇ」

2人とも食べる手が止まらない。あっという間にマシュマロは売り切れてしまった。

「ふー美味しかった」

フミは幸せそうに息を吐く。ミカはコップなどの後片付けを始めた。

「そういえばそのコップもミカちゃんのなんだよね?」

「ああそうだが、どうした?」

「寝袋とかも持ってたし、他になに持ってるの?」

「他か」

そう言ってミカは自分のリュックの中を覗き込み、中身を順番に並べていく。

「寝袋、財布、タオル、ナイフ、コップ、スプーン、箸、着替え、水筒、手袋、食料、お玉、鍋、蝋燭、ホイッスル、包帯、工具」

「結構入ってるね」

フミが一旦ミカの物色を遮って話しかけた。

「ああ。1人でいるときはだいぶ助けられた」

「他にはなにがあるの?」

「あとはよく分からない物しかないんだが」

ミカはそう言いながら、小型の機械を取り出しフミに見せた。

「これは無線ってやつだね。遠くの人と会話ができるの」

「本当か?」

「うん。他の人も持ってないと使えないけど」

「ならばもう一つ見つけるまでは不要か」

「まだある?」

「ああ」

今度は中心に丸いガラスその裏に四角い鏡がはめ込まれた機械を取り出した。

「分かるか?」

「これは初めて見るかな。なんだろう?」

ミカは色々な角度から見ながら所々にある出っ張りを押してみるが、特に変化はなかった。

「まぁいいかこれは。次で最後だ」

ミカは最後の荷物に手をかけ、取り出すのを少し躊躇った。「どうしたの?」ふみが尋ねてきた。ミカは一呼吸置き最後の荷物を取り出した。

「これだ」

ミカが取り出したもの。それは2丁の拳銃だった。念のため火から離したところに置いた。

「これ本物?」

「おそらくな」

2人は黙りこんだ。当然だこんなものを持っていれば引かれるに決まっている。

「すっごー!ミカちゃんもしかしてアサシン!?」

想像と違う、いや想像の斜め上の反応だった。

「引かないのか?」

「引く?なんでさ?」

「いや。なんでもない」

どうやらフミにとって銃は嫌悪の対象ではないようだ。自分の中の常識は杞憂で済んだようだった。

「ミカちゃんこれ撃てるの?」

「多分」

正直撃ったことはなかった。しかし、なんとなくできるような気がしていた。

「あそこの看板見えるか?」

ミカは20メートルほど先の倒れかけた看板を指差した。看板は根元から折れ、隣にある大きな機械の残骸にもたれかかっていた。

ミカはマガジンを銃のグリップに押し込み、スライドを引いた。ガシャンという音とともに1発目の弾が銃の中にセットされ、撃鉄が起きる。ミカは安全装置を外すと拳銃を両手で構え、素早く的を狙った。

そしてミカは引き金を引いた。肩に軽い衝撃はしる。手首が軽く揺れる。再びスライドが引かれ、薬莢が飛び出る、次の弾が自動で装填される。

轟音とともに放たれた銃弾は、的のど真ん中を貫通した。

「すご......」

フミはあまりの凄さに言葉を失った。ミカは少し得意顔でフミの方を見た。

「こんなもんだ」

「いやぁ〜。凄いわ本当」

「フッ」

ミカはマガジンキャッチを押し、マガジンを抜いた。その後適当な方向に1発撃ち、銃の中に入った弾をなくした。

その後地面に落ちた薬莢を拾い上げた。その動作は記憶にはないが体に染み付いた癖のようなものだった。

「本当、ミカちゃん何者なんだろうね」

「私が知りたい」

ミカは先ほど出したものをしまい始めた。

「もしかしたら、ヒットマンだったりして」

「かもな」

今は自分の正体なんて分からない。だからこそ進むだけだ。ミカはそう思った。

「そろそろ出発だな」

ミカは荷物を詰め終わったリュックを背負った。

「じゃあ行きますか!」

フミも立ち上がる。

そして2人はまた歩き出した。

2人の長い1日は始まったばかりだった。












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