第2話 ちょっと聞いてください。
ちょっと聞いてください。
ぼくには大好きな恋人がおりました。
最初の出会いはおよそ10年前、当時大学2年生のときです。
彼女とは映画研究サークルで知り合いました。
最初はサークルの先輩と後輩の関係から始まり、少しずつ距離を縮めるようになりました。
その後ぼくが大学を卒業して社会人になった頃、晴れてお付き合いをすることになったんです。
ぼくは心から彼女を愛し、また彼女もぼくを愛してくれていました。
彼女が熱を出した時は隣町の彼女の住むアパートまで駆けつけ、一晩中看病しましたし、彼女が社会人になった頃には毎日のように車で会社から家まで送り届けました。
こんなのは当たり前のことです。彼女のことを愛しているのですから。
休日の朝には彼女にモーニングコールをかけ、その日のぼくのスケジュールを伝え、彼女のスケジュールも聞きました。
彼女がモーニングコールに出ないときは、自宅まで起こしに行ったこともあります。
そのとき彼女は青ざめた顔をして「なにしてるの」とぼくに呼びかけたのを覚えています。きっと体調が優れなかったのでしょうね。
しかし付き合い始めてから2年ほど経つ頃、突然彼女が電話で別れを切り出しました。
「もうあなたにはついていけない」と。
ぼくのなにがいけなかったのか、本当にわかりませんでした。
ぼくは納得がいかず、それから何度も彼女に電話をかけました。
5分おきにかけても、1時間おきにかけても、一向にでてくれませんでした。
メールを毎日送り続けても彼女は一切取り合ってくれず、すべての連絡手段を拒否され、ぼくの前から姿を消しました。
ああ、彼女はいまどこにいるのか。
あれからもう8年ほど経ちますが、彼女をずっと探し続けています。
彼女がかつて住んでいた家の向かいにある公園のベンチにひとり腰掛けては、昔の淡い記憶を呼び戻し、感傷に浸るのです。
どうにも、彼女がまだそこの家に住んでいるのではないかと、少しの期待を寄せながら。
「ねぇママ見て!あのベンチに座ってる男の人、さっきからずっと1人で喋ってるよ」
「しっ、見ちゃだめよ。あの人は何年も前からあそこで独り言喋ってるんだから近寄っちゃいけないよ」
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