第6話 ~ ラ ~

 

 ハッピー&サプライズ。


 これが彼の掲げたテーマだった。

 実に彼らしい選択だった。


 能力を駆使すれば、世界中の人々の心を操ることも可能だった。

 その分、能力の効果は弱くなってしまうのだけれど、数人だけをラッキーにしたり、いくつかのハッピーを作り出したりするより、世界中をひとつにしたほうがいい。

 彼はそう考えたんだ。


 世界を七等分。

 これが彼の思いついたとびっきりに生かしたアイデアのポイントだった。


 本やインターネットで検索しまくって、世界をざっくりと七等分にした。

 その後に、今度はその地域に住む人達について調べはじめた。人口が密集している主要都市。少数民族が暮らしている偏狭な場所。そのあたりだけ微妙に調整をした。

 

 世界は面積で分けられるのではなく、あくまでも、そこで生活している人たちの数で分けられなくてはならなかった。

 分けていくうちに、彼は自然と鼻歌を歌っていた。



 ♪~嫌なことがあっても 空を見上げていよう――

   ♪~空はいつでも どれ見ても おんなじなんだから――



 短く繰り返される、とってもシンプルなのにどこか違和感を感じるメロディーラインと、妙に耳に残る覚えやすい歌詞。

 小さい頃から、彼のお気に入りの歌だった。

 彼の世代にとってはテーマソングみたいなもので、多くの友達と口ずさむこともあったし、口笛で吹くこともあった。


 これだ。

 あっさりと彼の中でその曲に決まった。


 それから二週間経った日。夕暮れ時を見計って、彼はお姉さんに会いにいった。

 彼の姿を一目見ただけで用は足りたとばかりに、お姉さんは口角を持ち上げて大きな笑顔をみせた。

 しばらくお姉さんの視線が、彼の全身を行き来した。含み笑いを漏らしたお姉さんが、「ちょっと待って」というように手の平を差し出した。

 

 画用紙を一枚破って、そこに何やら言葉を書き込んだ。

 わざと腕で覆って書いたので、全部は確認できなかったけど、「みんなに届きますように」というメッセージは読み取れた。

 

 書き終えると、紙を斜め方向にくるくると丸めて、直系三十センチほどの細い棒を作った。それを受け取りながら、彼はさすがだと思った。

 これがなくてはカッコがつかないからね。


 最後にお姉さんは、画用紙に「私はここの特等席で楽しく拝聴させてもらうわ」と書き足した。言葉の脇に、音符がいくつも添えられていて、本当に楽しそうな応援メッセージになっていた。


 大きく頷いた彼は、さっと細い棒を構えてみせた。

 室内から拍手が湧き起こったのを受けて、彼は照れ臭そうに頭を掻いたってさ。 でも、それが彼の背中を強く後押ししてくれたんだ。


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