第3話


電車に揺られいつの間に眠っていた博康。おぼろげながらに眼をさまし時計を見た。

あれからずいぶんの時間を費やしていた、夏の太陽も少し勢いを弱めた日差しを電車の中に注いでいた。

景色はいつの間にか山を抜け、町が見え始めていた。

そんなに大きな町ではないが、山間の景色の良い町だ。

ふと思いつき、博康はその町で電車を降りることにした。

町をぶらぶらと歩き、ふとお腹が空いていることに気付いた。

「あんなに昼ごはん食べたのに……まだお腹が空いているなんて……やっぱり生きていく事は大変なんだな。早く自殺する場所にたどりつかないと……」

そう、博康は自殺する場所を決めていた。昔、何処で見たかは解らないが、博康の中には鮮明に思い出す場所……その場所を見つける為に旅を続けているのだ。

それがどこなのかはっきりとは覚えていないが、北の方の海沿いの何処かにあるという事だけは覚えていたので、電車で北に向かう事にしたのだ。

そして今、博康は名前も解らない町にいる。

「今日の夜はどうしよう……とにかく寝れる場所を探そう」

そう思い、博康は当てもなく町を歩き出した。

寂しいながらもそれなりの町ではあるので、宿を探す事にそれほどの苦労もなく博康は宿にたどり着いた。

小奇麗なビジネスホテルたどり着いた博康は、ホテルのロビーに行きホテルの従業員に声を掛けられた。

「いらっしゃいませ、ご予約の方ですか?」

「いえ、予約はしていないんですけど……だめですか?」

「少々お待ちください……こちらのお部屋ならご用意できますが」

「解りました。それでいいです」

鍵を受け取り、エレベーターで目的階のボタンを押す、そのすぐ後にエレベーターは静かに博康の体を目的階に運んだ。

エレベーターを降りた博康は、カギに書かれた番号の部屋に入った。

部屋はホテルの最上階にあり、あまり高い建物の無い町を一望できる西向きの部屋だった。

窓のカーテンを開けると、ちょうど沈みかけの夕日がよく見える。

自殺の為の一人旅、そんな事さえも忘れさせてしまうような綺麗な夕日を見て思わず一人呟く。

「こんなにも夕日がきれいだなんて」

そんなことを思いながらも、お腹を空かせた博康は夕食を食べる為にホテルから外に出ることにした。

しばらく街を歩き、駅前にある何軒かの飲食店の中から適当に一軒の店を選び、食事をして店を出た。

そのままホテルに戻ろうかとも思ったが、近くから何かにぎやかな音が聞こえてくる。

博康の足は自然とその音のする方に向かった。

死ぬことを決めてから今日にいたるまで、全くそんな事に興味など向かなかった博康だったが、旅に出て初めていろいろな物に心を奪われていることに、自分でも少し驚いていた。

近くまで行くとどうやら街の祭りのようで、あまり広くない境内にはたくさんの出店が並び、人でごったがえしていた。

人が多い所が苦手な博康は、祭りだということが解るとすぐに引き返していき、ホテルへの道をたどった。

ホテルに着き自分の部屋に入った時には、もうあと少しで9時になる所だった。

博康は少し疲れていたのか、そのままベッドに倒れこむように眠ってしまった。


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世界はこんなにも 流民 @ruminn

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