ヘラジカ対シロサイ

「一回戦第三試合ヘラジカ対シロサイ始めるのです!」


 博士のかけ声を聞いて、ヘラジカとシロサイが互いにツノをつけた槍のような武器を空中から出した。サンドスターの輝きが武器からキラキラ出ている。


「あのぉ、武器っていいんですか?」

「ありです」

「ありありです」

「えー、ずるーい! 私もほしいよ!」


「サーバルには無理なのです」

「えっ、そうなの!?」

「あれは意思の力で出現するものです。身体の一部みたいなものなので」

「サンドスターの不思議ですね」

「不思議だね!」


「それで、博士と助手はこの勝負どうなると思いますか?」

「森の王ヘラジカとシロサイ、体長3mを越える巨大動物対決。迫力ある試合を期待しているのです」

「面白くなるといいのです」

「あの、ところでシロサイさんって『森の王』とか『百獣の王』みたいな異名はあるのですか?」

「ありますよ」

「シロサイハ『サバンナの火消し』ト ヨバレテイルヨ」

「あ、ボスが喋った! えっと……火消し? なにそれー!」

「あんまり強そうじゃないですね……」

「火ヲ見ルト スグニ 消ソウトスルラシインダ」

「火に耐性があるので、ヒグマに続いて料理当番に出来るかもしれません。じゅるり」

「いや、消すから無理なんじゃ……」

「そこはかばんがなんとかするのです」

「え、えー!?」


 そんなこんなを言ってるうちに、ヘラジカが武器を構えて突進する。シロサイは動かずに槍を構えて、防御の体勢を取る。


「うおおおおー!」


 雄叫びをあげて真っ直ぐに突進するヘラジカ。


 がつっ!

 シロサイに勢いよく激突すると、勢いに負けてシロサイが吹っ飛ばされた。


「あうっ!」


「吹っ飛ばされたのです」

「ヘラジカのパワーすごいね!」


 ごろんと地面を転がるシロサイを見下ろし、ヘラジカは言う。


「どうした、シロサイ。私はお前が相手でも容赦はせんぞ」


 威風堂々たる立ち姿は、正に森の王に相応しい迫力だ。


「怪力自慢のオーロックスでも攻めあぐねるシロサイの防御をやすやすと突破するとは」

「やりますねぇ」

「チナミニ 動物ノ体重デ比較スルト、ヘラジカハ600キロ、シロサイハ3トンノ チガイガアルヨ」

「体重差約5倍あるのに、なんでヘラジカさんはシロサイさんを吹っ飛ばせたんですか?」

「それはサンドスターの不思議なのです」

「たしかに、元動物として強い方がフレンズ化しても強いことが多いのです。フレンズ化は元動物の特徴を色濃く残すので」

「ですが、元動物の特徴を越えて強くなる個体もいるのです。ライオンやヘラジカがそうですね。かくいうわれわれも」

「ええ、われわれは元動物よりすごくかしこいので」

「そうなんだー!」


 ヘラジカに吹っ飛ばされたシロサイが槍を杖代わりにして立ち上がった。


「やりますわね、ヘラジカ様」

「当然だ! 私はヘラジカだからな!」

「ふっ、そうでしたわね……そう、あのとき出会ったときから、変わってませんわね、ヘラジカ様……」


 遠い目をしてヘラジカを見つめるシロサイ。


「あれ? 二人とも動きませんね。どうしたんでしょう?」

「じーっと見てるよ! めちゃくちゃ見てるよぉ!」

「ああっ、あれはっ!?」

「知っているのですか博士!」

「はい。われわれはかしこいので」


「あれは『回想に入った』のです」

「えっと……何ですか、それ」

「かばんには見えないのですか?」

「今二人の脳内には出会ったときの記憶が鮮明に浮かび上がっているのです」

「感動なのです。泣けるのです」

「まさか二人の間にそんなことがあったなんて……」

「見えないよ!!」


「と、いうわけで回想が終わったようなので、試合が再開されました」

「うー、結局なにがなんだか分からなかったよぉ」


 回想が終わった二人は互いに武器を持ち、走る!


「うおおおおおお!!」

「はああああああ!!」


「おお、今度はシロサイも防御を捨てて突進してますよ」

「守勢に回っては勝てないと認識したのでしょう。悪くない判断です」

「二人とも全力ですね!」


 がきん!

 二人の武器が激しく交差する! 凄まじいパワーとスピードをもって衝突した両者は、まるでジャパリバスが大破するほどの破壊エネルギーを生んだ!


 どごぉーん!

 爆発するような音と地鳴りがあたりを揺らした!


「どどど、どうなってるんですか?!」

「うわー! すっごい揺れ!?」

「パワータイプ同士のぶつかり合いです」

「やりますねぇ!」


 もくもくとあがった砂埃が晴れて、二人の姿があらわになる。そこには、激しく鍔迫り合いをしているヘラジカとシロサイ!


「ぐぬぬぬぬぬ……!」

「ふむむむむむ……!」


「両者一歩も引かないのです」

「パワーは互角、ということですか?」 

「いえ、それはこれから明らかになります」


 鍔迫り合いをしながらもヘラジカは笑う。


「はっはっは! 楽しいなシロサイ!」

「ふっ……ヘラジカ様はいつも楽しそうですわね」

「当然だ! 私はお前とも全力で戦いたいと思っていた!」

「ヘラジカ様……」

「思っていたとおりだ! お前は強いなシロサイ!」

「そんな……私ごとき……」


 ヘラジカのかける言葉にどこか申し訳無さそうに謙遜するシロサイ。


「あれ? シロサイどうしたんだろ?」

「もしかしてだけど……何か負い目があるのかも」

「おいめ?」

「ほら、いつかの練習試合でサーバルちゃんに負けたこととか、それ以前にもオーロックスさんたちに51連敗してることとか……」

「ゔっ」


 かばんの言葉が刺さり、がっくりするシロサイ。


「そうですわよね……わ、私なんてまだまだダメダメですわ」

「ああ、シロサイががっくりしてるよ!」

「わあぁ! ご、ごめんなさい!」

「かばんは割と辛辣なのです」


 そんなシロサイを励ますように声をかけるヘラジカ。


「いいや、お前は強い! そしてもっと強くなる! 一度や二度の失態がなんだ! それが何か関係あるのか!」

「ヘラジカ様……」

「まだどこか遠慮しているようだな、シロサイ。私が相手だからって臆するな! 私はなんだ!?」

「ヘラジカ様?」

「そうだ! ヘラジカだ! だからお前の全てを受け止めてやろう! それが『森の王』としての私の役目だ! 来い! 『サバンナの火消し』!!」

「って、私は火消しじゃありませんわー!!」


 ぐおおおおん!

 ツッコミの勢いでものすごいパワーで盛り返すシロサイ!


「おお、おおおおお!?」

「サイサイサイサーーーイ!!」


 どがん!!

 シロサイの爆発的なパワーは、ついにヘラジカを上回り、跳ね飛ばした!


「サーーーーイ!!!」


 どごーん!

 突き飛ばされ、壁にぶつかるヘラジカ。会場があまりの衝撃に再び揺れた!


「はぁ……はぁ……はぁ……ど、どうなりましたの?」


 荒い息を吐き、あたりを見回すシロサイ。全力を出しすぎて周りがよく見えてないようだ。


 がらがらっと瓦礫の下からヘラジカが立ち上がる。仁王立ちで腕組みをして、堂々たる立ち姿だ。


「うむ、強かったぞシロサイ。お前はそのまま真っ直ぐ進めばいい」


 そう言い残し、腕組みを解いて大の字になり、ばたーんと倒れこむヘラジカ。


「ヘラジカ様!?」

「は、はは。もう立てぬ。楽しかった……ぞ……がくっ」


 そのまま満足気に目を閉じ、ぐったりするヘラジカ。


「ヘラジカ様ーーー!?」


「へ、ヘラジカが死んだよ!?」

「いや、死んでないよサーバルちゃん!?」

「まぁ、ともかく勝敗は決したのです」

「優勝候補の一角、ヘラジカがここで敗れるとは思いませんでしたが、この試合の勝者はーー」


「「シロサイです!!」」


 わーわーどんどんぱちぱち。


「か、勝ちましたの……? 私が……やりましたわー!」


 一瞬信じられない表情だったシロサイだが、少し遅れて勝利の喜びを噛み締めた。

 こうして、一回戦第三試合はシロサイの勝利で幕を閉じた。


「パワー勝負を制したのはシロサイでしたか」

「元々、スペックは高かったのです。活かしきれてなかっただけで」

「とはいえ、下克上するほど強いとは思いませんでしたけどね」

「勝負は蓋を開けてみるまで分からないということですか」


「と、いうわけで一回戦は残り一試合」

「次はアミメキリン対ヒグマです」


 かっかっかっと歩く音が聞こえてくる。会場にシュバッと姿を現したアミメキリンが人差し指を額に当てながらビシッとポーズを決める。


「遂に出番が来てしまったようね。この名探偵アミメキリンの!」


 次回、名探偵アミメキリン! 湯けむりフレンズつるつる事件簿! 犯人はヤギね!!

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