第九章 『夢想転生』

「どうか・・・したのかい?」


「えっ・・・どして?」


「ん?

 何となく・・・」


「・・・?」


アルの心配そうな表情に

少し不安混じりな自分に気がついた。


「ところでカムイっ。

 ここ、さいっこ~に居心地がい~だろっ」


「え?

 なに、やぶからぼうに」


「だ~か~らっ

 居心地いいだろっ」


パルポルンが強制の同意を求めてきた。


「この街?

 建物?」


「ちげ~よっ

 この世界そのものだよっ」


この言葉は、

ここは人間界ではないことを

強制的に思い出させた。


「あぁ・・・うん

 最高にいいよ・・・」


本音だった。

ただ、そう思った瞬間、

おふくろさまとエリの存在が頭をよぎって

ほんのり建前も入り混じったかのような

複雑な感情へと変わった。


「だろっ

 オレもここ気に入ってんだ

 なっアルっ

お前もそうだろっ」


「もちろんだよ」


「それがどうしたの?」


「いやっべ~つにっ

 心配すんなっ

いつでも来れるさっ」


といつもの調子で

パルポルンが笑ったが

その意味ありげな言葉に

言い知れぬ不安を感じた。


「あぁ・・・いつでもね・・・」


アルもうっすらと意味深な表情で

そう独り言のように呟いた。

明らかに

二人ともいつもと様子が違った。

いつか帰るであろうボクを気遣っての、

きっと色々わかったうえでの

慰めのつもりなんだろうと、

そう思うことにした。

それをわかってか


「ほんとだぜっ

 いつでもこれんだよ」


といつになく真剣な面持ちで

パルポルンがそう付けたした。

そのまま、

ボクの横をすり抜けざまに

肩を軽くたたき、

躊躇無く塔の奥へと向かった。

ただ、今までと違ったのは

初めてパルポルンが

目を合わせなかったことだ。

そこには、

大きな意味があるように感じた。


「パルポルンは・・・

 ボクが言いにくいことでも、

あ~やってさらっと言えるんだ・・・

 彼は本当に優しいよ

いろんな意味でね

 ボクには、到底真似できない・・・」


と少しだけ物悲しそうな

アルの表情が気になった。


「言いにくい・・・こと・・・」


この言葉に、

先ほど感じた不安が近づいていることを

直感した。


「いつでも来れる・・・

 まるで

 お別れの言葉だ・・・」


ボクは声にならない声で

小さく独り言を呟いていた。

いろんな意味で

重い空気がまとわりつく中


「お~いっ

 カムイ~」


先ほど、奥へ向かったパルポルンが

この重苦しくも荘厳で静寂な空気を

いとも簡単にかき消した。

彼には

緊張感という観念がないのだろうか・・・

本当に羨ましい性格だ。


「アルっ

 そう言えば、

パルポルン奥へ歩いて行ったけど

 何かあるの?」


「あぁ・・・

 安らぎの瀬に癒しの壁

理の階段に真実の窓

縁の庭に所縁の池

輪廻の扉に境界の狭間

 そして

 無限回廊と・・・真理の間

エントランスと秤の間の他に

ちょうど10の空間が存在するんだ」


「無限回廊と真理の間?」


そこに、妙にひっかかった。

『部屋』ではなく

『空間』と言うアルの言葉は

今までの経緯で何となくスルーできたが、

『無限回廊』と『真理の間』

という言葉だけは耳に残った。


「あぁ」


「何だか構えちゃう名前だね」


と思わず苦笑いが零れた。


「ふっ

 そうかい・・・」


とアルは普段通り笑ったが、

どことなく余所余所しく見えた。


「お~いっカムイ~」


またしても

この静寂なる空気を

ものともしない容赦ないご指名だ。

いくら周りに誰も居ないとは言え、

こっちがどうかある。


「聞こえてるよ~今行くから」


精一杯の小声で返事をして

アルに促そうと振り返ると、

ほんの一瞬、

アルの視線が泳いだ。

アルのそういう人間的な仕草は

初めてだった。

そこに

今までに無い違和感と不安を覚えたが

さらに追い討ちをかけるように

パラスが減った。

負の相乗効果は

意識すればするほど勢いを増す。

今までも何回か刻印は作動していたが

不思議と気にはならなかったことが

かえって今回の作動の重みを際立たせた。


「行こうか・・・カムイ

 考えてもしょうがない」


「えっ?

 考える?」


アルを見ると、

いつもの

静かな優しいオーラに包まれていた。


「パルポルンが

 また何か企んでるのかな」


敢えて声に出してみたが

何の気休めにもならなかった。


「行けばわかるさ・・・

 キミの・・・」


先を歩き出したアルの言葉が

最後まで聞き取れなかった。


「えっ?

 何?」


聞こえなかったのか、

意図的なのか、

この質問はスルーされた。

ボクには、

もう一度聞く勇気はなかった。

気持ちとは裏腹に

しんっと静寂を称え

光り輝き弧を描くように続く回廊を

アルと無言のまま歩いた。

ほんの2~3分程だっただろうが

この無限回廊は、

その名の通り

永遠に続くと感じられた・・・


「おうっ

 ここだここだっ」


いつもなパルポルンが手招きしていた。


「やっぱりここか・・・」


また少しアルの様子が変わったが、

パルポルンのいつもな調子に

そう大事ではないと

自分に言い聞かせた。


「やっぱり?」


「ん?

 あぁ

 パルポルンはどっちなんだろう・・・」


「どっち?」


どう考えても

意味深としか取りようの無い

アルの言葉が

無理やり落ち着こうとしていた

ボクの中に

小さくも大きな波紋を落とした。


「あぁ

 ごめんっ

 なんでもないよ・・・

 行こうっ」


最近出る、

アルの人間くさい仕草のおかげで

何でもないことではないと

容易にわかった。


「入ればわかるさっ

 なんも怖いことはね~

 オレらも一緒に行ってやるから

 入ってみ

 ってか、

ここは一人じゃ入れないんだけどな」


パルポルンの言葉も、

アルの仕草がなければ

ただのプチドッキリだと信じて

疑わなかっただろう。

それに、いつもなら、

パルポルンの

『一人じゃ入れない』

という言葉に

軽くツッコミを入れただろうが

これから起こることに

本能が構えていたせいか

それすらできなかった。


「ボクありきみたいな感じだね

 な・・・なんだか怖いよ」


「おこちゃまかお前はっ」


「大丈夫だよ

 ボクらも付いて行くから」


「・・・わかった・・・」


今までに無いほどの速さで

あらゆる想像と妄想の類が

仮定と想定を織り交ぜ

自分会議を始めたが

意外にもあっさりと結論が出た。


「じゃあ・・・行くよ」


二人に対する

絶対的な信頼と考えても

結局答えは想像でしかないという

不安と恐怖から

逃げたかったからだろう。


「あぁ」


「おうっ

 そんな構えんなって

 気楽にいこうぜっ

 気楽によっ」


「うんっ」


前を見ると、

先ほどまでそこにあった

大きな白銀の扉が消え、

代わりに遥か上空から

透けた白銀のカーテンが下がっている。

オーロラのように

無尽蔵に形を変え、

色を変え

たなびいている。

この時、

初めて気付いたが

この回廊・・・

天井が見えない。


「ふっ」


何で笑ったのか

自分でも意味が分からなかった。


「どうしたんだい?」


「よく・・・わかんない・・・」


「はぁ?

 変なヤツだなぁ~」


この二人の反応と

ボクに対する態度を見る限り、

この先に大きな何かが待ってる

という感じではなかったが、

払拭はしきれなかった。

そういう

微かな不協和音を感じてはいたが、

不思議と

何の決意も必要としないまま

普通にそのカーテンを潜れた。

次の瞬間、

真っ白い世界が

劈くように目の前に広がった。

奥行きも天井も認識できない程の

真っ白な世界。

耳鳴りのような

音じゃないまっすぐで鋭利な空震・・・

不快感はなかったが

今まで体験したことのない感覚に

一瞬で平衡感覚を失った。


「おっと」


「なっ

 一人じゃ無理っつったろっ」


その声と同時に、

両脇を二人に抱え起こされた。


「なんだ、こういうことか・・・」


大きくも小さな疑問が

解決したと思い込みたかった。

この白い部屋であろう空間に

無防備な『無』を感じたが

ソレに対する恐怖は微塵もなかった。

そもそも

『無』じゃないのかもしれないとか、

『無』がイコール恐怖とは

限らないじゃないかとか

自分会議をしてる時点で

少し落ち着きを取り戻してる

自分に気付いた。


「終わったか?」


と、いつものように

ツッコミを入れるパルポルンに

安堵すらした。


「ようこそっ

 ここが真理の間だっ」


「真理の間・・・」


上も下も右も左も無い・・・

真っ白い空間。

真理の間・・・


「そう・・・真理の間

 カムイ、あそこ・・・

 見えるかい?」


アルが遥か先を指差した。

目を凝らすと、

何かが遥か遠くに輝いている。


「何か光ってるね・・・

 何?

 あれ・・・」


「行ってのお楽しみだっ」


「本当に楽しみの類なの?・・・」


「キミ次第・・・

 今は半々かな」


「ボク次第?

 しかも半々って・・・」


「あぁ

 でも悪いことは無いと思うよ」


「心配すんな

 それに、意外と近いぜっ」


「別に距離は心配してないんだけど・・・」


上辺は、

いつもな三人の空気が戻っていたが

ボクは

不安とほんの少しの好奇心のせいで

平常心ではなかった。

この感覚は、

今まで感じたそれとは異質な感覚だった。

必然が手招きしてるようにボクには思えた。

他に何の目的地も目標物もないこの空間を

三人で歩いて『そこ』へと向かった。

途中、他愛も無い会話をしつつも

集中できないまま歩き続けた。

なかなか近づかないソレに向け歩き出して

感覚的に30分ほど経っただろうか。

いい加減、口数も減ってきた。


『意外と近いぜっ』・・・


パルポルンの嘘つきっ。


数歩先を歩くパルポルンに目を向けると

黙々と歩いている。

が、足取りは軽い。

アルも同様だ。

不自然なくらいの静寂は

パルポルンの沈黙のせいもあったが

ボクの緊張しはじめた胸のうちが

起因してるのかもしれない。

暫く歩くと、

その光り輝くものの正体がわかった。

鏡だ・・・

近づくにつれ、

ここに似つかわしくない

ごく素朴な存在感に

少々拍子抜けというより安堵した。

何かが起こりそうな予感はあったが

それは、

ボクに不利益じゃないと直感で感じた。

いよいよ目の前まで迫ったが、

嫌な予感も胸騒ぎも起きない。

ボクの身長位ある

大きな楕円形の縁取りのない鏡だった。

鏡を覗くと

ノア族な自分が立っていたが、

特に違和感を感じることもなかった。


が、次の瞬間、

もっと単純な違和感に気付いた。

確かに、ボクが映っている。

しかし・・・ボク・・・だけだ・・・

両脇に立っているアルとパルポルンが

写っていない。


「えっ?」


と二人に目をやると

二人ともそこにいる。

ボクの両隣に。

絶対に映りこむ立ち位置だ。

もう一度鏡を見たが、

やはり二人とも写っていない。


「ははっ心配すんなっ

 それは鏡じゃね~よっ

 『真実の窓』ってんだ

 この窓は真実を映す

 お前の奥深くに眠る心の真実をな」


「窓・・・

 えっ?

鏡じゃないんだ・・・」


「そうだよ、カムイ

 これは、窓

 今はキミだけの窓だよ

 キミが望めば

 キミの心の真実を

垣間見ることができるんだ・・・」


「ちなみに、

 オレらにはオレらの窓が見えてる

 自分にしか見えない窓がな」


「そう・・・なんだ・・・」


窓が単体で宙に浮いてるという

不可思議現象すら

さほど疑問に感じないのは、

この魂魄界に染まって

慣れたせいではない。

もうじき来るであろう

『その瞬間』への

困惑のためだと

大多数のボクが

感じてしまったからだ。


「ボクの・・・真実・・・

 難しくて意味が・・・」


「ふっ

 難しく考えることないよ

 ただ、覗いてごらん・・・」


「てかな、わかんね~から覗くんだよ

 何がわかんね~のかすらわかんね~だろ

 考える必要はね~んだよ

 ただひとつだけ確かなことがある

 それは、

 お前は人間様で

 ここは人間界じゃないってことだ・・・

 これは、紛れもない事実だ

 後は自分で考えなっ」


このパルポルンの言葉に

そっけなさより突き放す優しさを感じた。


「わかった」


「おいっ

 人の話ちゃんと聞いてたか?

 言ってる傍からこれだっ

 オレらは考える必要はね~って

言ったろ~がっ

 わかったじゃなくて

ツッコムとこだろがっ」


「ふっ」


「ははっ・・・なるほどっ・・・

 ありがとっ」


「なっ」


パルポルンの顔が赤らんだ。

照れたのか、はたまた怒ったのか。


「良くわかんないけどやってみるよ」


「まったくよぉ~」


力が抜けたように

パルポルンの赤らんだ顔が

風船が縮むように収縮した。


「ふっ

 気楽にね

カムイ」


「ま~いっか

 なんも怖かね~から、

もっかい覗いてみなっ」


「うん」


「オレらにはどうせ見えね~けど、

 一応離れるかアル」


「そうだね」


二人が気を遣って

この場を離れようと振り向いた瞬間、

ボクの中で

言い知れぬ不安が急成長した。


「居てくれないかなっ

 二人ともっ」


「え・・・」


「ん?」


二人とも

ボクの言葉を

予想してなかったかのような

リアクションだった。

少し意外だった。


「何だか胸騒ぎがするんだ・・・」


「お前がいいんなら

 オレは全然構わないぜっ」


てっきり

弱虫とか臆病的な

ツッコミ的叱咤がくると思っていたため

少々、拍子抜けしつつもほっとした。

ただ、それがかえって

事の重大さを語ってる気もした。


「勿論、ボクも構わないよ」


アルは想定通り応えてくれた。


「ありがとう」


二人の笑顔に

不安と緊張が心地よくほどけた。

アルは勿論、

パルポルンも最強に空気が読める。

ボクが、こういう心境の時には

絶対に茶化さない・・・と思う。


決心が揺るがないうちに

ゆっくりと振り向いて

窓に向き直った。

自分会議を始めないように

意識を無心へと集中させた。

やっとの思いでたどり着いた窓。

わずか2歩が

こんなに遠く感じたのは、

あの橋以来2度目だ。

ゆっくりと視線を上げると

窓は普通にボクの視線の高さにある。

あくまで高さの話で、

浮いてることを

普通と認識したわけじゃない。

何を考えればいいのか

全く見当もつかないまま

その窓を覗くと

それで良かったんだと

瞬時に意識が溶け込んだ。


「これでよかったんだよ・・・ね。

 カムイ・・・・・・・なんだから・・・」


「勿論だっ

 いつかはわかることだ。

 早い方が少しは気が楽だぜ・・・

それに・・・」


「あぁそうだね・・・

 きっと・・・・・・

だから・・・」


そんな

途切れ途切れの会話が

遥か後ろから微かに聞こえた。

聞こえなかった部分が

気になりつつも

そのまま意識が

暗く深い漆黒の闇に

吸い込まれるように心地よく途切れた。

どれくらいの時間が経っただろうか

うつろう光と気配に

意識が明るみを帯びた。


「う・・・うぅ・・・ん・・・」


「おっ

 お目覚めのようだぜっ」


「カムイっ大丈夫かい?」


「んっ・・・

 アル・・・パルポルン・・・」


「ようっ」


「お帰り、カムイ」


次第にはっきりする景色と意識。

それに比例するかのように

さっきまでの自分と

明らかに異質な感覚が

現実味を帯びてきた。

今までに感じたことが無いくらい

はっきりと刻み込まれた感覚。

眠っていた記憶が

鮮明に入り乱れている。

煩雑に

理路整然を模ってゆく

無秩序な断片が

あるべき姿へと復元してゆく・・・

そんな感じだった。

だが、ほんの一瞬のうちに

その不可思議な感覚は消え失せ

いつもの自分へと帰還した。


「ボクは・・・気を失ってたの?」


「まぁ身体的にはそうかな」


「身体的・・・そう言えば・・・

 夢を見てたかも・・・

 うろ覚えだけど・・・」


「ははっ

 夢じゃね~よっ」


「えっ?」


「キミは、記憶の回帰をしてたんだよ

 キミ自身が望まずに無くした記憶を

手繰り寄せてたんだ」


「記憶の・・・」


「記憶のカケラに

 小さな灯が灯ったはずなんだ

 時間が経てば、その光が強くなってきて

 収まるべきところに収まるよ」


「まぁ、焦るなっ

 直わかることだ」


「う・・うん・・・」


ボク自身、

何の記憶を欲したのかは

わからなかった。

冷静な今なら

人間界と魂魄界の両方で

知りたいことはかなり思い浮かぶ。

ただ、

それは単純に疑問であって

深層心理で求めるものとは

たぶん違う。


「ボクが思い出したいこと・・・

 思い出さなきゃいけないこと・・・

 想像は容易につく」


期待や楽しみより

不安が頭をもたげた。


「心配しなくても大丈夫だよ

 キミが望まない記憶が

蘇るわけじゃないから

 それに、

確実にキミが必要とする記憶のはずだよ」


「だなっ

 ただ、

ぜって~びっくりするだろうけどなっ

 いろんな意味でよっ

ははっ」


いつもの

二人のリアクションに救われたが

正直、楽観的になれない自分も

そこにはいた。


「そう言えば、

 二人とも窓覗いたの?

 自分の」


「なんで?」


「なんでって・・・」


「ボクらは覗いてないよ

 今は、その必要がないから」


「そういうこった」


「ふう~ん・・・」


ボクのためだけに

来てくれたということか・・・

二人に導かれるように

言われるがまま

この広大な部屋を出ると

いとも簡単に

元居た日常に帰還できた。


「何だか不思議だね・・・

 あんな世界とこの回廊が

このカーテンひとつで

行き来できるなんて・・・」


「そんなもんか?

 オレらはそうは感じなねぇ~けどな

 なぁ~アル」


「そう・・・だね」


「キミらにとっては

 疑う余地の無い現実だもんね」


「おうっ」


お互いの常識内では、

全然常識的なことだが

対エトランゼとなると

普通にそうもいかなくなる。


「ただよっ

 今のはおまけだっ」


「おまけ?」


「あぁ

 後からのお楽しみってなっ」


「そうなんだ・・・」


二人の表情を見る限り

本当の意味での楽しみのように感じた。


「それよりよっ

 神様にでも会ってみるか?カムイ」


何とも、突拍子もなく

想定外の言葉が飛んできた。


「神様?

 唐突だね・・・

 ってか、いんのそんなの?」


「ったりめ~だろっ

 喧嘩売ってんのかっ」


「なっ

 何で怒るんだよっ」


「怒ってね~よっ!!」


「まぁまぁ・・・二人とも・・・

 で、行ってみるかい?

カムイ」


「アルまで・・・

 何だか怖いけど、逢ってはみたいな」


「だろっ

 だろぉ~

そうこなくっちゃっ」


「いつも以上に乗り気だね・・・」


「あったぼ~よっ・・・

 こっちが本命だかんなっ」


「本命?」


「ホンメイ?」


「何でオウム返しすんの?」


「はぁ?

 おめぇ~が言ったんだろがっ」


「今、パルポルンが言ったじゃないか」


「言ってねぇ~よそんなこと」


「えぇ~言ったしっ」


「しつけ~な~お前もっ

 言ってね~もんは言ってねぇ~」


リアクションからすると

本当に言ってない風だった。

空耳だったんだろうか。


「おっかし~な~

 確かに聞こえたんだけどな~

 アルじゃないよね?」


「ボクは言ってないよ」


「だよね~」


「も~い~じゃね~かっ」


「わかった

 ま~いっか」


自分の中で確信してはいたが

折れた方が話が早いと、

ここは譲った。


「じゃ~

 オレもそういうことにしといてやる」


「ははっ」


筒抜けなんだった・・・と、

ここには反応しないんかいっと

自分でつっこんで自己完結した。


「じゃ~行こうかっ」


「おうっ」


「うん

 行こう」


いつも以上にいつもなやり取りに

少々の違和感を感じたが

刻印に変化が無いことで

大したことはないんだと

自分に言い聞かせて、

頭をもたげつつあった

不安をぐっと押し殺した。


「さ~

 いいよっカムイっ

 カーテンをくぐってっ」


「えっ?

 同じ部屋なの?」


「同じ?

 何言ってんだよカムイっ

 さっきの部屋は後ろだろ~がっ

 大丈夫かお前?

 さっき入ったのが真理の間で

 こっちが無限回廊だ」


パルポルンの言葉に

条件反射のような速さで振り向くと

そこには

さっきのカーテンが靡いていた。


「えっ?」


頭がパニックになった。

最初、あの部屋に入る時、

確か回廊の左側に扉があった。

その扉がカーテンに変わったのは確かだ。

あの時、

絶対に向かい側はおろか、

近隣にドアも窓も無かった。

でも今は

回廊の両側にカーテンが靡いている。


「ねぇ、さっきは無かったよね

 この入り口」


「何言ってんだよっ

 無かったに決まってんだろっ

 おかしなヤツだな~」


「えっ?」


さらに

頭がパニックになるのを

通り越してしまい

意外と冷静でいられた。

全く逆の返事を想定していただけに

意表を突かれた・・・

程度にしか感じられないくらい

むずがゆい冷静さだった。


「なんだよっ『えっ』って」


「いや・・・勝手に

 『あったじゃねーかっ』みたいな言葉が

かえってくると思ったから・・・」


「なんだそりゃっ」


ボクの勝手な思い込みで

一件落着しかけたが

よくよく考えるとやっぱりおかしい。

『無かったに決まってんだろ』

で終わるからおかしいわけで、

そこに存在してる理由というか

経緯が続かないことに

違和感を感じたんだということに

気付いた。


「いつ出てきたの・・・これ・・・」


と目の前の

先ほどとは違うカーテンを指差すと


「お前が決心したときだよっ」


と、

もっともらしい言葉が返ってきた。

ただ、

そのもっともらしい言葉に意図された

『無造作ないたずら』を垣間見た気がした。


「そっか・・・」


「大丈夫かい?

 カムイ・・・」


ボクの動揺にも似た躊躇を感じてか

アルが心配そうにボクを覗き込んだ。


「ア・・・アル・・・

 大丈夫だよ」


この虚勢も

筒抜けなのはわかってはいたが

人間の社交辞令は簡単には払拭できない。

アルもそれをわかってる風で

それ以上聞かなかった。


「さっ

 行こうぜっ」


「うん

 てか、無限回廊って部屋なの?

 ボクはてっきり

さっき通ってきた

 通路の名前だと思ったよ」


「それじゃ無限じゃね~だろっ

 ま~入ればわかるさっ」


アルが返事をしないのを

パルポルンも敢えてつっこまなかった。

目の前のカーテンは、

先ほどと同じで

実体の感触はない。

しかし、

ボクの手の動きに

従順に宙にひらめく。

ボクが入ったのか、

カーテンが包み込んでくれたのか

認識できないまま

次第に明るみを帯び

まぶしさが増す。

ゆっくりと目を開けると

人間界のどこかにもありそうな

小高い丘の上に

独りポツンと立っていた。


「アルっ

 パルポルンっ」


返事はなかった。

樹も生えてなければ、

ベンチもない。

足元には、

今までにも見てきた草達が居た。

ただの小高い丘?

淡い風が舞い、

薄く暖かな陽光が

そっとボクをすり抜ける。

改めて二人の姿を探したが

気配すら感じられなかった。

居心地の悪くない

広大で無味な景色に

急に孤独と不安が差し込んだ。


「ここは、部屋だ・・・

 ここは、部屋だ・・・

 ここは、部屋だ・・・

 ここは、部屋だ・・・」


『ここは部屋の中だ』

と意識を集中して

勝手に立方体の枠組みをつけると

開放感と引き換えに

不安を和らげることはできた。

先入観を上手く利用できれば

都合よく落ち着くこともできるんだと

理論尽くめの理性を

無理やりひきずりだした。

理性を沈着させるまでの暫くの間、

焦点の合わない目で

景色を傍観していたが

ふっと風が頬を撫でたかのような感触に

焦点がきれいに定まり、

我に返った。


「お~~~~~~~~~いっ」


返事など全く期待してなかったが

手始めに景気づけで思いっきり叫んでみた。案の定、

うんともすんとも反応は無い。


「ははっ

 だろうな~」


第三者がいないと

独り言が自然と口を突いて出る。

寂しさを紛らわせるためだろうか、

それとも

自分の存在を確認するためだろうか・・・

そんな自分会議が始まりそうな中、

本来の目的を思い出した。


「だった・・・神様・・・

 ははっ

神様に逢いに来たんだったっけ・・・」


神様と言えば、

もっと淡いパステル風な景色に

蝶の舞、

小鳥のさえずり、

風の音に合わせて

竪琴を引く蒼い目をした

柔らかい中性的な容姿をしているか、

ギリシャ神殿風の居城に

威厳を纏い

金色の後光を発した

剛の猛々しい姿を想像していた。

実際、そのいずれも、ボクの想像ではなく、

誰かの創造したものに影響されまくった

『いかにもな空想』なわけで、

相変わらずな自分に失笑した。

気を取り直して辺りを見渡したが

ソレらしき影は当然のようにない。

まず、場所が朗らか過ぎる。

さっきの部屋みたいに

違和感のある目印もない。


「ふっ・・・

 どうしろと・・・」


いい加減、

目的も無いまま

どこ行くでもなく立ってるのが疲れてきた。座ったところで

景色も気分も変わるわけではないと、

大の字に寝て空を仰いだ。

ちょっと意地悪で急に寝転がってみたが

案の定、逃げ遅れる草達はいなかった。


「はは

 ごめんよっ

 でも凄いね・・・」


妙に生命というものに感心した。

それにしても、雲もない・・・

明るいのに太陽も無い。


「どうなってんだ・・・ってか・・・

 やっぱ部屋か・・・ここ・・・」


そのうち

心地よさに負け意識が遠のくのを

心地よく迎え入れた。

どれくらい経ったであろうか、

す~っと何かに引っ張られるかのように

意識を起こされ目が覚めた。


「・・・あっ・・・

 寝てたのか・・・」


相変わらず

真っ青なスクリーンに覆われたままだ。

起きあがってみたが

何も状況に変化は無かった。

時間すらどれくらい経ったのか・・・


「おいおい・・・

 帰れるのかな・・・」


入る前とは違う不安が膨れ上がってきた。

お陰で意識が

寝起き状態から臨戦態勢へと切り替わった。クリアな意識と視界で

もう一度周りを見渡した。

すると、先ほどは絶対に無かったモノが

今そこにあることに気付いた。


「ん・・・」


真っ黒い・・・球体だ。

輪郭もはっきりとした漆黒の・・・


「いや、違う・・・

 穴だ・・・」


地面から30cmmくらいの高さの空間に

直径にして1cm程の穴が開いていた。

立ち上がって色んな角度から見てみたが、

不思議とどの角度から見ても穴だった。

いきなり覗く度胸などもちろん無い。

失明なんてしたくないし、

何より痛いのはご免だ。

しかし、木の枝もなければ小石も無い。

芝は逃げるし、持ち物といえば・・・


「あっ

 ラフレシアっ」


一気に期待が膨らんで

慌ててカプセルを取り出し呼び出したが

全く無反応だった。

お陰で、倍、凹んだ。


「なんで・・・」


別に、ラフレシアに

どうこうさせたかった訳じゃない。

話し相手というか

『誰か』の存在が欲しかっただけだ。

仕方なく服の裾を小さく束ねて

穴に近づけるも何も起きない。

靡きもしなければ、吸い込まれもしない。

何回か試行して

反応が無いことを確かめてから

意を決して人差指で恐る恐る触ってみたが

何の感触も感覚もなかった。

実際、触れているのかすら

わからないくらい本当にただの穴だ。


「わかったよ

 覗けばいいんでしょ、覗けばっ」


これは

仕組んだであろう誰かに対する

独り言だ。


「まぢで突かないでよ

 突いたら、まぢキレるからねっ」


未確認の第三者に対する言葉なのか

ボクの独りよがりな懇願なのか、

とにかく、

勇気という魔法を自分にかけた。

まずは1mくらい離れて

細目で一生懸命見るも

予想通り全く何も見えない。

30cm・・・

何も変わらない。

いよいよ射程距離と思われる10cm。

心持ち、

斜に構えて覗くもやはり何も見えない。

ただの真っ黒い・・・

この時点で、

これはそもそも

本当に穴なのかという疑問が生まれた。

最初は球体だと思っていたものが

直感的に穴だと感じた。

それが既に間違っているのか?

簡易の自分会議を行ったが

結局、

穴だという前提で行動することにした。


「ふっ」


斜に構えたところで、

何処から見ても正面の穴なわけで、

それに気付いて自分の行動が鼻で笑えた。


「はぁ・・・」


と諦めのため息をつくも、

決心がつくはずもなく・・・


「わかりましたよっ

 覗けばいいんでしょ

 覗けばっ」


と、半ばやけくそで勢いに任せて

穴に目をくっつけた。


「さて・・・と・・・」


くっついた感触も無かったが

たぶん、ここが穴があった位置のはずだ。

と、冷静さが差し込んだせいで

さっきの勢いが一瞬で吹っ飛んだ。

この状態から仕切り直しか・・・

でも、考えてもしょうがない。

さっきまで無かったものが現れた時点で

これに対して何かリアクションをしないと

事が進まないのは明白で・・・

どのみち超えなければならない壁だ。

いっそのこと、

おもいっきり目を開け・・・

るのはやはり怖い。

少しずつ少しずつ

視界を広げていくと

やはりただの真っ暗だった。


「ん?」


真っ黒じゃなくて、真っ暗?

何で真っ暗なんて思ったんだろう。

よ~く目を凝らして見ると

暗いが何かが動いてるような気がする。

直感的に急に動くのはまずいと感じ

ゆっくりと

その穴から距離をとっていくと

一気に全身を鳥肌が覆った。

穴の向こうに目がある。

さっきの真っ暗なものは

何かの黒目だったようだ。

その目は、

こちらを瞬きひとつせず凝視している。

お互いを認識したというより、

最初から向こうに観察されていて、

今ボクがそれに気付いただけ

といった感じだ。

その目に

話しかける勇気などあるはずもなく

さらにゆっくりと距離をとった。

すると、

その目も後ずさりしていたようで、

ついにその正体が明らかになった。


「えっ?」


ボクは一瞬で恐怖と緊張を維持したまま、

自分会議モードになった。


「・・・ボク?

 人間の・・・ボク・・・」


今現在、互いの容姿は違えど、

ボクに違いなかった。

穴の向こうは、

見慣れた自分が

こちらを同じように覗いていた。

変な間のあと、

我に返って改めてびっくりすると

向こうのボクも

同じようにびっくりしている。


「今度こそ・・・鏡?

 心を写す鏡・・・?」


にしては立体感と存在感が半端無い。

試しに動いて向こうの動きを観察したが

明らかに、リアクションが同じだ。

色んな想像が駆け巡ったが

言う程、

多くの選択肢が見つかりはしなかった。

やっぱ鏡?

それとも3Dホログラフ?

クローン?

この程度だ。


「さてと・・・

 どうしたものか・・・」


声をかけるか・・・

ちらっと向こうを見ると、

向こうも同じタイミングで

こちらをちら見していた。


「あっ」


やはり鏡を見ているかのようだ。

きっと今のボクは

穴の向こうのボクと同じリアクションだ。

このままじゃ埒が明かない。

思い切って声を掛ける事にした。


「あのっ」

「あのっ」


寸分違わず思いっきりハモッた。


「こんにちは」

「こんにちは」


「こ・・・こわいな」

「こ・・・こわいな」


「うわぁ~」

「うわぁ~」


まったくハモる。

て言うかハモッてると思う。

実際は自分の声しか聞こえない。

リアクションが自分のものと同じと

勝手に思い込んでるせいで

同じ言葉を発してると

思い込んでるに過ぎない。

でも、気味が悪い・・・

鏡とは違う臨場感抜群の自分に

訳が分からなくなってきた。


「キミは・・・」

「キミは・・・」


思わず口を突いて出た。

向こうもそんな感じだ。


「キミは・・・何?」

「キミは・・・何?」


間も・・・全く同じだ。


「ボクは・・・」

「ボクは・・・キミだよ」


「えっ?」


無意識にオウム返しを想像をしていたため、かなりびっくりした。

自分で言ったかと、勘違いするほどに

『ボクなソレ』は

ボクとは違う意思で返事をした。

意外と早くしっぽを出してくれた『ソレ』に少しの安堵と不安にも似た恐怖を感じた。


「ボクは・・・キミだよ」


「ボク?」


「そう・・・キミ」


「ボク・・・

 キミはボクで、

ボクはキミってこと?」


「違うよ。

 ボクはキミだけど、

キミはボクじゃない

 キミはキミだよ」


「うわっ・・・

 わ・・・訳わかんない・・・」


「全てが・・・キミなのさ」


「全てが・・・ボク・・・」


「そう」


「全てが・・・ボク・・・」


全く理解できない・・・


「全てって?」


「全てさ・・・」


「意味わかんないよっ」


「しょうがないな・・・」


向こうのボクは

そう言って穴に手を伸ばした。

その瞬間、

小さかった覗き穴がグングンと広がって

そのまま、まったりと空間が繋がった。

ほんの数秒の出来事に

ボクは身動きひとつできずに傍観していた。頭では逃げたかったが、

本能がそれを拒否しているかのようだった。


「やあ・・・」


「や・・・やあ・・・」


「待っていたよ・・・

 キミを・・・」


「待ってた?

 ・・・ボクを?」


「あぁ」


「なんで・・・」


「覚えてないの?」


「覚えて・・・?」


「無理もないか・・・」


そう言って

もうひとりのボクが軽く微笑んだ。


「キミはボクを探してたんだろ?」


「キミを?」


「あぁ」


「えっ?」


その瞬間、

パンさんの言葉が脳裏に浮かんだ。


「大切な・・・モノ・・・」


「そう・・・

 キミにとってボクは大切なもの

 キミがキミでいるために必要なもの・・・」


「ボクにとってキミが・・・」


「そう・・・」


「それって・・・」


「この世界にキミが留まるには、

 ボクの存在は邪魔なんだ

 裏を返せば、ボクが居なかったから、

君はここに留まれたんだよ」


「留まれた・・・?」


「そう・・・」


いろんな質問や見解が

頭に浮かんでは消え浮かんでは消えと

思考が迷走するなか、

ひとつの疑問だけが残った。


「もしかして・・・

 やっぱり・・・ボクは・・・

死んだの・・・」


その言葉に

『ボクなソレ』は優しく微笑んで

首を横に振った。

ほっとした反面、

ボクの思考はもう行き場を無くした。

次の瞬間、

今まで居た草原は消え失せ

どこまでも真っ白い空間にいた。

言いがたい孤独感が

キンッと襲い来る空間に。


「あれ・・・ボクは?」


今の今まで目の前に居た

もう一人なボクの姿が消えていた。

目が痛くなるほどの

その白い空間を見回すと

右手側2~3mのところに

何やら、小さな黒い影が見えた。

何やらもそもそと動いている。

恐る恐る近づくと

小さい小さい人影だ。

ただ、よく見ても

全身が真っ黒い影のまんまで、

膝を抱えて座っているように見える。


「影・・・?

 この光景、どこかで・・・」


デジャブと言うより

確かに見た光景だという確信があった。

その小さく黒い影は

丸まったまま

ゆっくりと右に左に横揺れしている。

時折、掠れた小声て

『゛あ~」と

苦しげに悲しげに呻いている。

不思議と恐怖感は無い。

すると、

悲哀さえ感じるその小さい影が

呻くのをやめ、

ゆっくりと立ち上がった。


「・・・?」


その小さな影は、

そのまま上を見上げて

ゆっくりと両手を天に翳した。

すると宙高くから何やら

ゆっくりゆっくりと降りてくる。


「・・・?」


見る見る降りてくる・・・

近づいてくる。


「数字・・・?」


それは見覚えのある数字・・・

戒律の刻印だった。

ただ、今までボクが見てきたものと

形式が違っていた。

表裏ではなく、

左右横並びで並んで

回転もしていない。

そして、そのままゆっくりと

その小さな影の目の高さに留まった。

するとその小さな影は、

一生懸命悩んだ挙句

左手を大きく外回りで

ゆっくりくるりんっと回した。

すると、左側にあった薄紅色の数字が

例の金属音を引き連れひとつ減った。

首を傾げてるような姿勢で

暫く、その数字を見つめていた

その小さな影は

ようやく納得できたのか

拍手をして諸手を挙げて喜んだ・・・

ように見えた。

そして、そのまま

戒律の刻印を天上へと送り返すと

一通り満足できたのか

ゆっくりと座り込み、

また膝を抱えて横揺れを始めた。

それを見て、ボクは急に胸が詰まった。

息苦しさと

キャパを超えた焦燥感に加え

何か胸焼けにも似た不安感が

胸の辺りで急成長し始め

ボクそのものが弾け飛びそうになった瞬間、

何かがボクの指をきゅっと握った。

蜃気楼にも似た揺らめき滲む視界に

ボクの左手の中指と薬指を両手で包む

小さな影がいた。

膨らみ続けていたその何かが

急速に萎み始め

次第に安息にも似た終息が訪れた。

視界が晴れ、

焦点が定まってくる中、

改めて見ると、

その小さい影が

まだボクの2本の指を握っていた。

それを見た途端、

母性の様な感覚に捕われ

次の瞬間、

ボクは訳もわからず

その小さい小さい黒い影を

抱きしめていた・・・


「・・・・・・・・・」


「あ《゛》~」



「ありがとう・・・

 もう、大丈夫だよ・・・」


「あ《゛》~」


その影は嬉しそうにそう答えた。

少なくとも、ボクにはそう思えた・・・

ボクの腕の中にいたその小さい影は

少しだけ温かく

壊れそうなほどに柔らかかった。

抱きしめていると、

その影から

懐かしさとあらゆる感情が流れ込んできた。


「こんな感情を・・・

 一人で抱え込んでいたんだね・・・」


その瞬間、

ボクは違和感を覚えた。

デジャブとでも言えばいいのか、

身に覚えのある感情や感覚を

共有してる気がした。

親近感を超越した何かを感じ

腕の中にいる

その小さい小さい影を覗き込むと・・・


そこには・・・


幼い頃の・・・ボクがいた・・・


ボクが最後に覚えていたボク自身だった。

ボクが忘れていた頃のボク・・・

あるいは閉じ込めてしまっていたのか・・・

感情が具現化したようなオーラを

一身に纏っている。

自然とひと雫の涙が、頬を流れ伝った・・・


「遅くなってごめん・・・」


「あ《゛》~」


「もう独りにはしないから・・・」


「あ《゛》~」


まるで、甘えてるかのような返事に

気持ちが共有できてるのを実感できた。


「゛あ~」


そう言ってボクに何かを差し出した。

見ると、

その小さい頃のボクの手に

小さい白い花が

しっかりとしかも大事そうに握られていた。


「あ《゛》~」


「ボクに?」


「あ《゛》~」


そう言いながら、

それをボクに手渡すと

満ち足りた表情でボクに微笑んできた。


「ありがとう・・・たかゆき・・・」


ボクは自分の言葉にはっとした。

ボクじゃない誰かが

ボクの意思とは無関係に言葉を奏でた・・・

そんな感じだった。


「たかゆき・・・たかゆき・・・

 そうか・・・

 ボクの名前・・・」


名前と一緒に

全てがフラッシュバックした。

おふくろさまの顔、エリの顔、

そして・・・

父さんとの記憶・・・

元から胸の奥にあったそれらに

やっと灯が灯った瞬間だった。

その灯はゆっくりとボクを包み

ボクの中にあった穴を

緩やかに時間を掛け消滅させた。


「パ~パ~」


と、嬉しそうに

小さいボクがしがみついて来た。

ボクの知らない記憶を

この小さいボクは持っている。

この小さいボクもまた、

この記憶の中だけで

独りで生きてきたんだと感じたら

さらに胸の内が苦しくなった。。

やがて、

す~っと気持ちが軽くなる中

腕の中の小さいボクが

ふわりと昇華したのがわかった・・・

代わりにボクの胸に

少しの重みが存在感を携えて宿った。


「お帰り・・・」


心に温かい燈が灯ったような感覚に

今まで空いていた胸の空席が

順に満たされた気がした。


「そいつはな、

 ず~っとここで

 たった独りで

 たかゆきっ

お前に信号を送っていたんだ」


どこからともなく聞き覚えのある声がした。

一瞬で全身が硬直した後、すぐに脱力した。


「ようやく逢えたようだね

 たかゆき・・・」


その声に、心底、安堵した。


「アル・・・パルポルン・・・」


「ちぇっ

 アルが先かよぉ」


「あっ・・・ごめんっ」


「あやまんなよ

 余計悲しくなるぜっ」


「ごめんっ・・・あっ」


「だからっ・・・

 まっい~けどよっ

 でっ大丈夫かっ?」


「わからない・・・」


「おいおいっ」


「しょうがないよパルポルン」


「二人とも・・・

 ボクの名前・・・」


「あ~

 わり~なっ騙してたみたいでよっ

 始めっから皆知ってるよ、

お前の本当の名前

 ただな、

おまえ自身が思い出さないと

意味がなかったんだよ」


「そっか・・・」


「それだけかっ

 怒んね~のかっ」


「何で怒るの?

 ボクのためにしてくれてたのに・・・」


「へっ・・・

 わかってんならい~やっ」


「ごめんよ、たかゆき」


「謝らなくていいよアル・・・

 逆に・・・ありがとう・・・」


「ところでったかゆきっ

 お前はここに何しに入った?」


「ここ?」


「あぁ」


「パルポルンが神様に会いたいかって・・・ 無理やり・・・」


「無理やり言うなっ」


「ふっ」


「冗談・・・」


「わかってるよっ

 でっ会えたか?」


「いや・・・

 神様には逢えなかったよ

残念ながら・・・

 でも、もっと素敵な存在には出会えた・・・

 父さんの記憶を宿した

 迷子になってた幼い頃のボク自身・・・

 ボクが手を離してしまった

 ボクの大切なボク・・・」


「なんだ・・・

 会えたんじゃね~かっ」


「えっ?」


「だ~めだっ

 こいつ全然わかってね~ぞっ」


「えっ・・・じゃあ・・・

 ・・・もしかし・・・て・・・」


「ふっ・・・ビンゴッ。

 そこの彼が・・・

創造神だよ・・・

たかゆき・・・

 ここはキミという創造神の造り出した

世界なんだよ、たかゆき」


その言葉に促されるように

『ボクなソレ』に目をやると


「ようやく帰れるよ・・・

 ボクが居るべき場所へね」


そこには先ほどの小さい頃のボクじゃなく、

元のもう一人のボクがいた。


「キミの居るべき場所・・・」


「あぁ」


「ここは、キミの・・・

 ボクの造り出した世界・・・」


「そう・・・」


『ボクなソレ』は

晴れ晴れしくも寂しそうな表情を浮かべて

うっすらと笑った。


「そう

 この世界が

キミの自分会議そのものなんだよ

 ボクらもこの世界も

キミの創造物なんだ・・・

 だからキミの想像しうる

出来事や世界観だったのさ」


「アル・・・

 どうりで・・・

 いまひとつインパクトに欠けるというか、

 人間臭いというか・・・

 人間の想像の域を超えてないわけだ・・・

 って

すんなり受け入れられるわけないよ」


「なんでだよっ」


「なんでって・・・パルポルン・・・

 いろんなことが

いっぺんに起こりすぎて・・・」


「そうだね、

 この短期間にいろいろあったからね・・・」


「そんなもんかね~」


「そんなもんだよ」


「わり~なったかゆき・・・」


「いや・・・別に謝らなくても・・・」


「・・・」


いつも聡明なアルも

常におちゃらけるパルポルンも

この時ばかりは

言葉が見つからない風だった。

それはきっと

ボクの心境が流れ込んだせいだろう。

きっと今、二人とも

自分会議をしているんじゃなかろうか。

そうこう考えているうちに、

ほんの少しだけ冷静さが顔を覗かせた。

ボクの想像しうることしか

起きてなかったのは

そういうことか・・・

あくまで、

想像出来うる生命体、景観、出来事・・・

人間の・・・・

いやボクの常識と想像や妄想

そして願望が根底にある。

なんとも乏しい想像力に失笑したが

自分自身に最大限の感謝をした。

これが今のボクの想像力なのか・・・

でもこの世界が本当に人間の、

ボクの中に存在するとするなら

人間もまんざらではないと感じた。

終わりのない限りある世界・・・

それが人間であり、

世界そのものであり、

宇宙そのものなのかもしれない・・・

この薄っぺらくも無限の領域は

きっと幾億年かかっても

解き明かされはしないだろう・・・

人が人のままである限りは・・・

新しい発見と創造がある限り

人は希望を捨てないのなら

未来は無限に広がっているだろう。

この自分会議すら

希望への架け橋なのかもしれない。

救済と進化の世界・・・


「この世界は、

 たかゆき・・・

キミの創造物

 だけど、実在するんだ

 キミの中でね

 そして

今まで出逢って来たノア族はキミ自身

 いわば、キミとボクらは

一心同体なんだよ

 数あるキミの中からキミは選ばれ、

そして昇華して

 人間として生まれた

 キミ自身というボクらの代表としてね」


「キミらとボクが一心同体?」


「おうっ」


「そうだよ

 ひとつなんだよ、ボクらは」


「ひとつ・・・

 なのにボクが選ばれた?」


「そう

 キミが選ばれた」


「ボクが・・・」


「おうっ

 お前が選ばれたんだ」


「何で?」


「理由なんかないよ

 キミが選ばれた・・・

ただそれだけ」


「ボクじゃなくてアルフ、

 キミやパルポルンや

 他にもいくらでも

ボクより為になるボクがいるのに

 なんで、ボクなんだ・・・

 キミ達の方が

きっと人間界の為にもなるはずだし

もっと・・・もっと・・・」 


「理由なんかね~って言ってるだろ

 ただ、お前が選ばれた

それだけだ

 だからな~んも気負う必要はね~んだよっ。

 気楽に考えればいいんだっ」


「でも・・・」


「あ~

 ウジウジうじうじウジウジうじうじっ

 考えてもしょうがね~だろがっ

 お前がそんなんじゃ

先が思いやられるぜっ

まったく・・・」


「まぁまぁパルポルン

 たかゆき、それは違うよ

 キミはとても素敵な存在なんだよ

 唯一無二なんだ

 今のキミは

『違う』って言うかもしれないけどね

 人はないものねだりをする

 ねだって、望んで、努力して・・・

 あるいは掴めること、

掴める人はいるかもしれない

 でも、それが全てじゃないだろう

 良い事もあれば、悪いこともある

 自分の等身大を受け入れて受け止めて、

 常に成長しながら前に進む

 成長なんて

目に見えて変わるものじゃない

 振り返って初めて気付くもの・・・

 時には道草をしながら

 その積み重ねが

生きていくってことじゃないかな

 それに、

ボクらはキミが生きている限り

 こうしてキミと共にある

 常にね・・・

 キミはボクらであり、

ボクらはキミでもある

 キミの願いはボクらの願いでもあるんだ

 ボクらの願いが

キミの願いでもあるようにね」


「おいったかゆきっ

 ここの皆、お前の事気に入ってんだよ

 お前でいいんだ

 お前で良かったんだ

 だから胸を張れたかゆき」


これ自体・・・

自分会議・・・

本当の自分との会話。

妄想でも想像でもない

自分を知る為の自分との会話・・・

次の瞬間、

聞き慣れたあの金属音が鳴り響いた。

今までに無く大きく、

そして力強く・・・

するとボクの胸の前に現れた数字が

回転を始め

一瞬光に包まれたあと

また『∞』と表示された。

同時に沈黙を守ったまま

ボクを見守っていた『ボクなソレ』が

ボクへと流れ込んできた・・・


「ただいま・・・」


ゆっくりと拓く破錠された記憶の扉。

絡まり行く宛てのなかった感情と

記憶の導線がはらはらと解れ行く。

光を孕みながら繋がって膨らんで

明滅を繰り返しながら螺旋を描き舞い昇る。昇華しなおかつ炎上する烈火の如く

激しく眩しくボクを包み込んだ。

体の隅々まで記憶のカケラが流れ込んで

埋まらなかった隙間を埋め尽くした。


ボクが・・・ボクに還った・・・


「ウロボロス・・・無限の可能性・・・

 そっか・・・そういうことか・・・」


たぶん

心はまだ受け止めきれないだろうと・・・

だからか

思考する時間と経験を与えたのは・・・


「父さん・・・ボクは大丈夫だよ・・・

 ありがとう・・・父さん・・・」


無意識に口を突いて出た。


「おめでとう、たかゆき

 とうとう見つけたね」


「みつ・・・けた・・・?」


「あぁ正確には

 気付いたってだけだけどなっ

 あ~あっ・・・

これでお役ごめんかっ」


「お役ごめん?」


「お前は気にしなくていいんだよっ

 それより、

待ち望んだ人間界へのご帰還が

迫ってきたぜっ

 いんだろっ

待ってるやつらがよっ

 早く帰ってやんなっ

 きっと待ってるぜっ・・・」


「それは嬉しいけど・・・

 心の準備がっ」


「心の準備?

 んなもんは必要ね~

 お前は考えすぎなんだよ

 心で感じたままに行動すればい~んだよ

 たまには信じろ自分をっ

 自分に降りかかる『不運』も『幸運』も、 いつでも突然なんだ

 心の準備する時間なんかね~んだよ

 だから、一瞬一瞬が大切なんだ

 いつ何が起きても、

受け入れられるようになっ」


「いつ・・・なにが・・・」


「基本、

 人間様は後悔するのがうめ~よなっ

 ある意味、感心するぜっ」


「パルポルン・・・」


「だってよ、

 たかゆき

今めっさ

 後悔してるって顔してるもんよっ」


パルポルンの

ボクに向いた視線を辿って、

アルもボクを見た。


「ふっ・・・たかゆき

 何か後悔してるのかい?」


その言葉に、

ここ魂魄界での出来事が

走馬灯のように目まぐるしく駆け巡った。


「こう・・・かい・・・」


後悔することだらけで考えがまとまらない。

きっと、

このまま、ずっと

ここ魂魄界にいるような気がすると

感じていたのか、

思い込もうとしていたか・・・

それとも、

今の自分の立場を

見ない振りをしていたか・・・

後悔だらけだ・・・


「お前は人間様だ

 それが普通じゃね~か?」


「あぁ

 深く考えなくても大丈夫だよ

 後悔が必ずしも

悪いことだとは限らないよ

 後悔も経験のひとつに過ぎない

 次の『その時』のための

前準備だと思えばいい

 何も怖くない

 たかゆきは、たかゆきらしく

生きていけばそれでいいんだ

 自分を愛することを

忘れちゃいけないよ・・・」


「でも、

 後悔はなるべくしたくないな・・・」


「それが人間様の

 美学であろうがっ

 美学なのであろうがっ」


「パンさんっ・・・どうして・・・

 ってか・・・

なんで二回言ったの」


「ふっ」


アルも可笑しかったようだ。


「たいせチュなことは

 何度でも言うでおじゃるよっ」


「美学・・・か・・・」


「何はともあれ、

 みチュけたようでおじゃるな

 いや・・・

みチュけたというより

向き逢えたと言うべきか・・・」


「・・・全然・・・実感が・・・」


「そうでおじゃろ~なぁ

 もともと持っておった記憶ゆえ・・・」


辺りを見ると、

さっきまでの白い空間が

いつのまにかパンさんの屋敷前に

変わっていた。


「いつのまに・・・」


「キミが悟った瞬間だよ、

 たかゆき・・・」


「ボクが・・・」


「あぁ・・・」


「もしかして・・・

 ボクは最初から

ここを一歩も動いていないの?」


「ふっ

 いやっ

 ちゃんとボクらと旅をしたよ

 あれは夢なんかじゃないよ

 紛れもない現実・・・」


「だ~~~~~~~っ

 ま~た正直に言いやがったぁ~~~~」


「良かった・・・

 あれで動いてないなんて言われたら

 脳内のキャパが

一瞬で弾けるところだったよ・・・」


「ほらなっほらなっ

 パ~ンッってのが

見れたかもしれね~のによぉ~」


「ふっ・・・まったく・・・」


「おいおい・・・

 笑えないよ・・・」


「ほんの暫くの間に

 仲良くなったようでおじゃるな」


「はい」


「まぁ

 仲良くも何もないでおじゃるか・・・」


「ふっ」


「ぬはっ」


「いずれ、全てが噛み合うでおじゃるっ

 焦ることはないでおじゃるよ」


「うん・・・」


「うん?」


「あっ・・・はいっ

 ははっ

 すいません・・・」


当たり前だが

パンさんの舌っ足らずも

初めて逢った時のままだった。

安堵にも似た脱力感が膝を襲ったが

かろうじてやり過ごすことができた。


「全ては、

 たかゆきどのの中にあるでおじゃるよ」


「・・・はい」


「ふっ・・・

 実感が湧かないかい?」


「うん・・・」


「焦るな焦るなっ

 いずれ嫌でも思い出すさ」


「うん・・・」


「あっ・・・」


「来たようだぜ・・・」


その・・・

いつにないパルポルンの声色に

その瞬間が

本当に来たんだと思い知らされた。


「さぁ~呼んでいるよたかゆき

 お別れの時だ」


初めてはっきりと

アルが別れを言葉にした。


「さよならは言わないぜっ」


返事する間もなく、

パルポルンが続けた。

初めてパルポルンの真顔を見た気がした。


「元気でね、たかゆき・・・」


いつの間にか、

ラフレシアとアクアリンの姿も

そこにあった。

アクアリンの寂しげな笑顔に、

胸いっぱいに湧き起こる感情が

ボクの言葉をかき消した。

なんて返事したらいいか分からないまま、

零れそうな涙を堪えるのが精一杯だった。

ラフレシアも潤んだ瞳のまま

思いっきりの笑顔で応えてくれた。

それが精一杯の笑顔なのはお互い様だった。


「さぁラフレシア・・・」


ボクと同じで、

一歩踏み出せないでいる

ラフレシアの背中を

アクアリンが軽く送り出してくれた。


「ダ~リンっ・・・」


精一杯我慢してたものが

互いに溢れ出た。

人間には、

なんでこんな分かりやすい機能が

備わっているのか。

そんな疑問で現実逃避できるほど

軽くないこの出来事は

ボクの胸を深く穿った。

自然に抱きしめた指先に

例えようもない想いがこもった。


「ダーリン・・・」


「ありがとう・・・ラフレシア・・・


 キミがいたから


ここまでこれたよ・・・」


ボクは全ての気持ちを込めて抱きしめた。


「んっ

 たかゆきっ

ありがとぉですのぉ」


「こちらこそ・・・

 ありがとっ」


それ以上の言葉が出てこなかった。


「達者でなっ

 たかゆきどの・・・」


離せないでいたラフレシアを

解き放てるように、

パンさんが優しく促してくれた。

この時ばかりは、

パンさんの成りを見ても、

全然笑えなかった。


パンさんのドアップから始まった

ここ魂魄界での記憶。

静寂の中訪れたアルフとの出逢い。

ボクが無くしたという

『大切な何か』を探すために出た

アルフとの二人旅。


アクアリン、


パルポルン、


拘わりを持ったノアの人々・・・

魂魄界のあらゆる種族たち、


そして・・・


ラフレシア・・・


今思えば、全てが必然だったのだろう。


数々の思い出が、

所謂、走馬灯のように、

ボクを目まぐるしく駆け抜けていった。


そんな中、

それぞれの別れの言葉達が

微かに遠くで聞こえた。

ボクは一言も還せないまま、

懐かしくも

身に覚えのある温かい光に包まれた・・・


ただ、

戒律の刻印のアテナとパラスが

ゆっくりと混ざり合い

『∞』に変貌していたのが朧げに見えた。


いよいよ、

この旅の幕が下りる時が来たようだ。


無条件に突きつけられた

締め付けられるような

郷愁にも似た感覚が

胸の奥からから全身へと

じんわりと広がった・・・

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