オクタゴンの金網

エンペラーズとの首位攻防戦を三連敗して首位を明け渡したヤンキースナインは地元千葉に帰った。


オーナーの塗呂は、試合後に揉め事を起こした陳、守山、八幡の3人をバーチーヤンキースタジアムに集めた。


塗呂は八幡の加入により、ヤンキースナインとの間にある溝があることは承知の上で八幡を獲得した。


はっきり言ってしまえば、こんなガタガタなチーム状態で優勝しようとは思っていなかった。



今年の目標はAクラス入りと八幡を獲得する事。


まさか優勝争いをしているとは想定外の出来事だった。


塗呂は目先の優勝よりも、この先、球界の盟主となるべき礎を造り上げる初期段階として今のうちに荒れるだけ荒れさせておけばいいとさえ思っていた。



特に八幡と守山は、前回球場の地下にて、闘いを行ったが、引き分けに終わっている。


近いうちにリターンマッチがあるだろうと読んでいた。


塗呂は3人を地下に連れて行った。


相変わらず仁王像がそびえ立つ地下室、別名【闘気修練】の間だ。


このただっ広い空間は、若手選手が闘気を養うべく、血と汗と涙が入り交じった苦行の修練場だ。


ここでは力のある者だけが正しい。この空間に於ては、力こそが全てなのだ。


「懐かしいネ。朋友とバトルした頃を思い出すヨ」


陳もかつては守山とこの地下闘技場にて拳を交えた。


お互い気の済むまで殴り合い、【朋友】【青幇】と呼ぶ仲になったのである。


いつもはロウソクの明かりしかない薄暗い空間だが、中央に向かってライトが当てられている。


そのライトが当たる中央にはオクタゴン(8角形)の金網に囲まれたリングらしき物が置かれていた。


「陳くん、守山くん、八幡くん。これは完全決着をつける為に用意した闘いの場なんだぬブヒョヒョヒョヒョ」


あの金網の中に入り、どちらかが勝つまで闘えという事らしい。


「とはいえ、今回は八幡くん1人に対して陳くんと守山くんの2人では分が悪い。ヤンキースの喧嘩(たたかい)に2対1はないぬ!」


要は陳か守山どちらかが代表で八幡と闘えという意味である。


「朋友、ここは朋友が闘うべきネ。八幡とはここでケリをつけるべきだ」


スケが守山に譲る形となった。

「青幇、そこでオレの闘いを見てくれ。必ず勝つ!」


「わかったヨ。それと朋友」


「何だ」


「オレは台湾の人間だから、上海とは何の関係もないネ。だからオレは青幇ではないヨ」


スケは守山に【青幇 チンパン】と呼ばれているが、守山が勝手にイメージしてそう呼んでるだけで、陳本人は生まれも育ちも台北だから、上海の暗黒組織【チンパン】とは全く関係ない。


「いいじゃねぇかよ、青幇で。イメージだよ、イメージ」


守山はそう言いながらオクタゴンの中に踏み入れた。


「こうなったら守山を倒してオレがトップ獲ったるわい!」


八幡も腹を括ったらしくオクタゴンの中に入った。








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