思い出話

北陸ファイアーズとの三連戦が終わった夜、ヤマオカは佐久間とスミス両コーチと共に金沢の割烹料理屋で食事をした。


日本海の海産物をふんだんに使った料理がテーブルに並ぶ。


「いや、しかし何とか首位に立った」

ヤマオカは前半戦で首位に立つのが想定外だったようだ。


「何言ってんだ、まだまだ先は長いぜ、アンタがしっかりしなきゃ」

佐久間は日本酒を飲みながらヤマオカに言った。

しかし満更じゃない表情だ。


「ヤマオカサン、マダマダコレカラネ」

スミスが片言の日本語で笑みを浮かべる。


首位に立てたのも、この二人がいたからだ。


「いや、ホント二人には感謝してる。佐久間さんやランディ(スミス)がいたからこそ、良い結果に繋がったんだよ」


ヤマオカは頭を下げた。


「ようやく折り返し地点だ。まだまだ頭を下げる場面じゃないよヤマオカさん」


「イエス、コレカラ大変デス」

スミスも佐久間に同調する。


「スミスさん、アンタ随分日本語上手くなったね?」


佐久間の言うとおりだ。


スミスはトーマスより後に来日したが、今ではナインと片言ながらコミュニケーションをとっている。

スミスは選手とのコミュニケーションが一番大切だと言っている。


「アリガトゴザイマス、佐久間サン」


「で、二人には黙っていたんだが」

ヤマオカが突然切り出した。


「ん?」


「実は私はヤマオカではなく…」

すると遮るように佐久間がヤマオカに言った。


「解ってるよ、アンタの正体は。俺も現役の頃はアンタによく打たれたから忘れたくても忘れやしねぇよ」


と佐久間が笑った。


「素晴ラシイバッターデシタ、宇棚サン」


スミスも正体は知っていた。


実はこの3人、日本の球界で活躍したプレイヤーだったのだ。


ヤマオカこと、宇棚 珍太朗は埼玉スーパーフライヤーズで主砲として優勝経験がある。


その年に47本のホームランを打ち、タイトルを獲得。同時にリーグMVPに輝き、ミスタースーパーフライと称された。


佐久間とスミスは、かつて千葉ヤンキースのエースと4番バッターとしてチームを支えた。


「もうかなり経つからなぁ」


ヤマオカが感慨深げに思い出した。


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