ターゲットは浅野
「He's an idiot! What the hell was he thinking?(何考えてやがんだ、あのバカ?)」
ライトの守備位置でトーマスJr.が呆れた顔して榊を見ていた。
左対左というのにマードックを歩かせた。
「4番、サード浅野。背番号3」
球界一スラッガー相手に勝負するつもりだ。
マウンドには内野陣が集まり、捕手の室田もマウンドに向かった。
「榊さん、何で歩かせたんすか?まさか浅野さんで勝負する気ですか?」
キャプテンの高梨が榊に言う。
「いいか、この試合浅野は塁に出させねぇ!浅野を抑えりゃオレたちは勝てる!」
試合前、榊は佐久間と一緒に浅野攻略法を考えていた。
まず浅野を心理的に揺さぶる。そして全ての打席で凡退させる。
簡単な策ではないが、今後ゴールデンズと対戦していくには浅野をどう抑え込むか、それによってエンペラーズが優位に立てるからだ。
浅野は打席で高潮しながらバットを構える。
目の前で敬遠され、自分で勝負しようとしているのだから、プライドを傷つけられたようだ。
「ナメやがって、テメーの球スタンドにぶち込んでやるっ!」
冷静さを欠いているが、打席に立つとスラッガーとしての威圧感が漂う。
並のピッチャーなら呑まれてまともな球を投げる事が出来ない。
しかしマウンドにいるのは球界随一の悪童だ。
榊が第一球を投げた。
「…っ!」
フワッとした緩いボールが弧を描きミットに収まる。
「ストライク!」
榊はスローカーブを投げてきた。
しかも90㎞にも満たない遅い球だ。
榊は試合でスローカーブを投げた事はない。
出場停止期間中に下半身を徹底的に鍛えぬいた。
昨年200イニング以上投げたせいか、今期はピッチングフォームがやや高い重心になっていた。
まだ疲れが残っていたのだろう。
下半身強化並びにケガをしないよう、柔軟性のある身体を作り上げた。
そしてスローカーブの修得に取り組んだのだ。
緩急をつけるピッチングを体得し、投球術に幅が広がったのだ。
この人を食ったかのような遅い球を投げたから浅野は余計カッカしている。
「んのヤロー!バカにしやがるような球投げやがって!!」
嘲笑うからのように榊は二級目を投げた。
アウトローにズバッと決まりストレートだ。
「ストライク!」
たちまちツーストライクと追い込んだ。
(次で決めるか?ヤツなら三球勝負で決めてくるだろう)
浅野は打席を外し2,3回素振りをした。
三球目を投げた。
インハイの釣り球だ。
「ぐっ!!」
途中で何とかバットを止めた。
室田が一塁塁審に確認するが、スイングしてないと判定する。
「あれに手を出さないとは流石だね~、スラッガー」
榊は余裕の笑みを浮かべた。
そして四球目は真ん中からボールになるスライダーを投げた。
これも見送った。
「ボール!」
平行カウントとなる。
次はストレートか、それとも得意のサークルチェンジか。
榊が五球目を投げた。
「…っ!まただっ!」
打ち気にはやる浅野バットをかいくぐるように、フワッと弧を描きスローカーブが決まった。
「ストライクアウト!」
最後はスローカーブで空振りの三振に斬ってとった。
くやしがる浅野。
(あんなスローカーブ投げてくるとはっ!…次は必ず打つ!!)
心理的に揺さぶりこの打席は榊に軍配が上がった。
一回の裏ゴールデンズの攻撃はランナー一塁残塁で終了した。
三塁側ベンチではヤマオカが「右バッターはインコース、左バッターはアウトコースを打て!狙いは浅野だ!」
動揺してる今、サードの浅野を狙い目打てばエラーするだろうという考えだ。
エンペラーズは徹底して浅野をターゲットにする。
浅野が攻守共に精彩を欠けばこれからの試合は優位に運べる。
二回の表エンペラーズの攻撃は5番垣原からだ。
かつてはこの球場で優勝に貢献したスラッガー、その気になれば今でも3割 30本はクリアできる。
スチュワートが第一球を投げた。
インコースを突くスライダー。
「ストライク!」
そして二球目は低めに外れるチェンジアップ。
「ボール!」
垣原は悠然と見送った。
三球目インコースに入るツーシーム。
「ストライク!」
まだ垣原は一度もバットを振っていない。
四球目を投げた。
高めに外れるストレート。
「ボール!」
まだアウトコースには投げてこない。
そして五球目を投げた。
アウトコースに入るストレート。
垣原が上手くバットを合わせた。
打球はサード横を抜けるレフト前ヒット。
ノーアウトからランナーが出た。
先程の三振の影響からか、浅野の動きが鈍い。
エンペラーズの狙いは的中した。
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