トーマスのバッティング改造

トーマスJr.はこの1ヶ月打撃のフォームを確認していた。


トーマスJr.のバッティングはパワフルが売り物だ。


しかし日本の投手に対応するべく、大振りになりがちなスイングをやや小さめに変えた。


トーマスJr.のパワーなら当たるだけでスタンドインする。


トーマスJr.は自分の身体の中心を軸とし、後は軸をブレずに回転するだけだ。


簡単に感じるが、フォームを改造するだけでもかなりの期間を要する。


スチュワートが一球目を投げた。


外角に決まるツーシーム。

「ストライク!」


(微妙に変化しやがる。クセのある球だな)


このスチュワート、ストレートだけではなく、全ての球種が一級品だ。


そして二球目は内角をえぐるスライダー。

「ストライクツー!」


ここで一球外すか。まさか三球勝負で来るのか。


そして三球目を投げた。


アウトローギリギリのストレート!


(よし、これだっ!)


トーマスJr.は上手くバットを合わせた。


打球はサードとショートの間をあっという間に抜ける流し打ち。


大和は三塁を回ったところでストップ。


当たりが良すぎて大和の足でもホームには突入出来ない。


しかし、トーマスJr.のバッティングは上手くコンパクトに捕らえている。


これを続ければ長打が出てくるだろう。


そして4番に高梨が打席に入る。


ツーアウト、ランナー一塁、三塁のチャンス。


スチュワートに焦りの色はない。


尻上がりに調子を上げていくピッチャーだからだ。



初球ストレート、高梨は見送る。


「ストライク!」


内角にズバッと決まった。


二球目は外角に流れるスライダー。


高梨が思わずバットを出したが空振り。


「ストライクツー!」


トーマスJr.の時みたいに三球勝負で来ることはないだろう。


三球目を投げた。


「ッ!」


ど真ん中っ!


「ストライクアウト!」


まさかのど真ん中にストレートが決まった。


呆気にとられ高梨は見送ってしまった。


スリーアウトチェンジ。


エンペラーズの攻撃はランナー残塁で終了した。


「ど真ん中投げるたぁ、思いきったピッチングしやがる、あの外人」


榊が高梨の肩をポンと叩きながら言う。


「はい、思っても見ませんでした」


「まだ初回だ。オレは浅野よりお前の方がサードとしては上だと思ってるからよ」


そう言いながら、マウンドに向かった。


打撃に関しては圧倒的に浅野の方が上だ。


しかし、守備力やチームをまとめる力は高梨の方が秀でてると榊は思った。


初回の裏、ゴールデンズの攻撃が始まる。


榊も絶好調で、1番2番を簡単に打ち取る。


そして打席には3番のマードックが左打席に入った。


榊はグラブで捕手の室田に立ち上がるようジェスチャーした。


榊が先発の時は、室田がマスクを被る事が多い。


室田に立てという事はマードックを歩かせ、浅野で勝負という事なのか…


そして室田が立ち、マードックを敬遠した。


場内がザワザワし始めた。



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