イップス
「痛ぇじゃねぇか、このヤローっ!!」
浅野が苦しそうにしていた。
この二人は昨年まで投打の主力としてゴールデンズを優勝に導いた。そして同じ年でもあった。
「浅野、イップスは治ったか?お前のエラーで随分苦労したからな去年は」
イップスとは、 精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、自分の思い通りのプレーができなくなる運動障害のことである。
浅野はイップスとまではいかないが、送球にやや難があり、暴投により得点された場面もあった。
浅野を外野手にコンバートさせようという案もあった。
しかし浅野はサードにこだわり、守備練習に一層力を入れ守備力が向上した為に、コンバートの話は立ち消えた。
「俺はイップスじゃねぇ!テメーだって気の抜いた球投げてホームラン打たれて何回も敗けてんじゃねぇか」
「オメーみたいなヘボサードがいるとやる気もなくなるからな」
「なら、今日も気の抜いた球投げろゃ!」
「そうするゎ。気の抜いた球テメーの頭にぶつけてやるよ」
「お前、ケンカ売ってるのか?」
この二人は別に仲が悪いわけではない。
常にこういう会話なのだ。
榊は自軍のベンチに向かい
「おい、お前ら!今日はサード穴だからな!サードに打ちゃ勝てるぞ!いや、これからこのチームとやる時は全部サードに打て!」
それじゃまたねー、とばかりに榊が浅野をからかい立ち去った。
「あのヤロー、変な球投げてきたらバット投げつけてやらぁ!」
そう言いながら浅野も自軍ベンチに戻った。
「大丈夫なんだろか、今日の試合…また荒れそうな予感だ」
櫻井が不安そうに言った。
そして試合が始まった。
エンペラーズの先発は榊、ゴールデンズは新外国人選手のベン・スチュワート。
スチュワートはスリークォーターから投げる150㎞近い速球を軸に、ツーシーム、カットボール、スライダー、チェンジアップを投げ、今シーズンは4勝1敗
防御率は2.04とリーグ1位の安定感を誇る右腕だ。
1番バッター大和が打席に入る。
スチュワートは一球目にインコースのストレートを投げた。
大和は見送った。
「ストライク!」
球威のあるストレートだ。
続く二球目もストレートを投げた。
今度はやや真ん中寄り。
大和はバットを振り抜いた。
痛烈なライナーでサード線ギリギリに入るフェア、レフトのマードックがクッションボールを捕り、送球するが俊足の大和は既に二塁ベース上にいる。
ノーアウト、ランナー二塁でクンニーズが早くもチャンスを迎えた。
「おい、ホントにサード穴じゃねぇかよ!律儀なヤツだね、お前は~w」
榊が三塁側ベンチでヤジを飛ばす。
「うるせーっ!今の打球捕れるワケねーだろっ!」
大和の打球はあまりにも速すぎて反応出来なかった。
あれを捕れと言うのが酷すぎる。
そして2番の櫻井が打席に入る。
やはりスミスの考案した打順はチャンスに櫻井が回るようになっていた。
スチュワートが第一球を投げた。
外角に外れるツーシームを見送る。
「ボール!」
ツーベースを打たれたスチュワートだが、球のキレは良い。
二球目は内角に食い込むスライダー。
「ストライク!」
(スライダーの曲がりがかなりスゴいな)
櫻井は打席でスチュワートの投げる球をじっと見ている。
三球目は低めに決まるストレート。
「ストライク!」
低めにストレートがズバッと決まる。
スピートガンは147㎞を記録した。
球の勢いがあるから低めの球がストライクゾーンギリギリに入る。
そして四球目を投げた。
またスライダーだ!
かろうじてバットに当てファールになった。
(このピッチャー想像以上に球の威力がある)
スライダーを当てたが、ヒットにするのが難しい。
次で勝負にくるか。
五球目を投げた。
チェンジアップだ。
タイミングを外されたが、櫻井はバットが出さなかった。
(低い)
「ボール!」
僅かに低めに外れた。チェンジアップもかなり有効に使ってくる。
並のバッターなら思わず手が出ても空振りをするところだ。
櫻井はボール球には手を出さない。
故に三振を獲りにくいバッターと言われる。
六球目、次はストレートだ。
(よしっ!)
櫻井の読み通りストレートだ。
上手くバットを合わせ打球は左中間に飛ぶ。
センター、レフトが追う。
マードックがフェンスギリギリまで下がり打球を捕った。
「アウト!」
他の球場ならスタンドインだった。
さすがにホームランが出にくい球場だ。
そして3番トーマスJr.が打席に入った。
榊同様、前回の乱闘で1ヶ月の出場停止処分から復帰したばかりだ。
トーマスJr.は出場停止の期間中、コーチのスミスと共にバッティングフォームのチェック及び、日本の投手に対応できるようにバットを構える位置をやや変えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます