世紀のトレード

時を同じくして、ここ東京ボールパークの来賓席では、阿佐オーナーとゴールデンズのオーナー穴堀 竿治郎(あなほり さおじろう)が試合を観戦していた。


穴堀は日本で1番の発行部数を誇る東京黄金新聞社の会長でもあり、その顔は球界のみならず、政界にも太いパイプを持ち、コミッショナーよりも発言力の高い人物であり。


その二人が観戦しながら、何やら会話をしていた。


「にゃんと!オーナーそれはどういう意味ですかぬ?」

阿佐オーナーが驚いた顔をしている。


「今の言葉通りだ。私は冗談など言わないのはキミも知ってるだろう」


穴堀オーナーは何か相談を持ちかけたきたらしい。


「しかし、あの選手を手放すとは…何を企んでいるんですかぬ?」


どうやらトレードの話のようだ。


「私はね、アメリカと真の世界一を決めるなんて意味がないと思ってるんだ。ボールも違う、ストライクゾーンも違う。そんな国のチームと何を競う意味があるというのかね?」


穴堀オーナーはメジャーのチームとWBCを行うのはナンセンスという考えだ。


野球はサッカーのように世界中で行われているメジャーなスポーツではない。


むしろ限られた国でしか野球は行われていないからだ。


日本のプロ野球球団とメジャーの球団だけで世界一を争って何の意味があるのだと。


野球とベースボールは似て非なるものだ。


日本には日本のやり方が、メジャーにはメジャーのスタイルがある。


だからメジャーとは交わる必要もないという意見らしい。


「今日本のプロ野球は1リーグ制の10球団だ。それなら2球団増やして2リーグ制にしてリーグ覇者同士が雌雄を決する方がいいと思うんだよ。我々はアメリカとは一切関わりを持たない独自の野球でやればいいだけだ。そう思わないかい?」


何やら大がかりな話になりそうだ。



「で、何故あちきのチームとトレードしようと思ったのですかぬ?」


阿佐オーナーにはにわかに信じがたい話だ。


「私のところのチームとキミのチームは別々のリーグに分かれる。そしてお互いリーグ優勝したら日本一を決める戦いをすればいい。その方が観客も入るし、日本全体が盛り上がる」


穴堀オーナーはマジらしい。


「オーナーの考えはわかりますが、何故あのような球界を代表する選手を手放すのですかぬ?」

かなり大物の選手を放出するつもりだ。


「彼はね、もはやウチのチームにいるような選手ではないんだよ。今年FAを取得してメジャーに行きたいだとか抜かしおって。アメリカなんぞに行ってポンコツになって帰ってくるなら、日本のチームに移籍させた方がまだマシだ」


「海外流出を阻止するためにトレードですかぬ?」


阿佐オーナーは仮にその選手がトレードでエンペラーズに来ても、FA取得すればメジャーに渡るに違いないと思ってるからだ。


「今キミのチームは勢いがある。有能な若手選手もかなりいるし、人気もある。観客動員数は私のところよりも上だ。だから彼を放出しようと思っている。それに活躍しても精々後数年。ならば今のうちに出しておこうと思ってな」


「にゃんと!しかしウチに来るとは思えませぬ」


阿佐オーナーは半信半疑だ。


「要は年棒をつり上げてやれば海外に出る事はないだろう。その金は私がバックアップしよう。私はね、彼は確かに素晴らしい選手だと思う。しかし、ウチに必要な選手かと言われたらそれはノーだ」


「何故ですかぬ?」


「華がないんだよ。キミのところにいる櫻井君と比べてもスター性に劣るからな」


「にゃるほど。しかしトレードとなると金銭ではないと思うんだが、誰を交換要員に欲しいんですかぬ?」


「キミのところの高峰君と、松浦君。それと土方君も必要だな」


「にゃんと!彼1人にあちきのところは3人ですかぬ?」


「不服かね?イヤならイヤでも構わないんだよ。ただし今後一切、ウチの新聞にキミのところの商品広告を載せるつもりはない!」


「ぬーーーん!にゃんという取引だぬ!あちきの会社の死活問題だぬ!」


黄金新聞社に広告を載せるのを中止となるとグッズの売り上げが大幅に減ってしまう。


そこをネタに脅してきた。


「…わかりましたぬ。浅野君のトレードの話を引き受けるぬ」


何と球界の至宝、浅野を手放すという話だったのだ。


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