第23話


「美樹、物理演算切ったって言ってたよな?」


 彼女が頷く。


「よし零、こっち来てくれ」


 心の全てを落としてしまったかのように、考えることも理解することも出来ないでいた。

 来いと言われたから、ただついていく。

 廊下の流しに来た。雷弩が水道の蛇口をひねって見せる。


「やっぱりな。見てみろよ」


 言われるまま視線を移す。蛇口から水が出ている。真っ直ぐに。


「変だろ?」


 焦点がうまく合っていなかったが、今の僕には問題があるとは思えなかった。きっと目をつむってたって同じ事だ。


「……別に」


 つぶやくように答えた。


「零……? お前」


 残りの三人も近くにいた。みんな頭の上にGMの文字を浮かべて回している。

 ああ。僕はまた夢を見ているのだ。裸の亞璃栖はどこだろう?


「悪りいな」


 雷弩が大きく腕を振るう。スローモーションのように拳が近づいてくる。衝撃。鼻の頭に痛みが走った。


「触覚の再現はまだ20%~30%だけどよ、こんだけ思いっきり殴りゃ、ちったあキクだろ」


 手首をぶらぶらと振りながら、倒れた僕を見下ろす。


「目は覚めたか?」


 冷たい目を向けられた。僕は頭を振った。


「ごめん。寝てたみたいだ。目が覚めた。ありがとう」


 まだ頭がクラクラする。殴られたからではない。立ち上がって平気な顔をしてみせる。


「時間を掛けてゆっくり説明して行く予定だったんだ。ショックなのは分かる。俺たちも時間がねえ。手短に話すから冷静に聞けや。美樹頼むぜ」

「私なのね……。零くんこれを見て」


 美樹が水道から出続けている水を指差す。


「今、この世界をより現実世界のようにみせるプログラムが切られてるの。だから水のデーターが……ほら」


 水はレーザー光線のように真っ直ぐ伸び、流しの面に当たって、水滴が跳ねる事もなく、扇状に広がり、排水溝に厚みのあるプラスチックのように伸びて消えていた。


「わかる? 私たちが今いる世界、コンピューターの作った仮の世界なのよ」


 連続するショックに、思考が地平の彼方へ吹っ飛びそうになるが、なんとか食いしばって理性を保つ。


「つまり……ここは」


 そこで言葉につまる。


「そう、可能な限り現実を再現したバーチャルな世界なの」


 美樹が続きを言った。


「感覚とか……だって……」

「もちろん一般的な技術じゃないわ、特殊……極めて特殊な環境と技術よ。今はそれを説明してる時間が無いの」


 美樹にはいつものおちゃらけた笑顔はなかった。


「亞璃栖を捜さないと」


 彼女の言葉に僕の意識ははじけた。思考が一気にクリアになる。脳のモーターが最速までギアチェンジしたみたいだった。


「亞璃栖? なんで亞璃栖!?」


 言いながらさっきの放送の言葉を思い出す。答えは明白だった。


「とにかく」


 雷弩が僕たち四人の肩を引き寄せる。


「他のGMより先に亞璃栖を見つけるぞ」


 全員で走り出した。そして道すがら四人が交互に説明してくれた。


 厚生労働省とゲーム会社、それに大学とその付属病院の官民学一体なプロジェクトであること。

 人間の五感まで再現した仮想世界であること。

 500人以上の人間がこの世界にいること。

 今行われているこの世界での実験は、より実生活に近い暮らしを実現(?)するためのものということ。

 最初に作られた世界がオンラインゲームのシステムを流用して作られたため、ゲームマスター=GMという名称がそのまま残っているということ。

 それは僕にはよくわからなかったが、とにかくこのシステム運用の中間管理職的な役割をもっているらしい。


「この……エマージェンシーの文字、消せないのかな?」


 走りながらも常に視界の正面に半透明に表示され続ける赤い文字。鬱陶しい事この上ない。


「指でタッチしてみて」


 美樹の言うとおり、触ろうとするが、ただ手が突き抜けるだけだった。


「触れたと思ったら、指を引いてみて、素早くね」


 言われたように試してみる。二度目で上手くいった。地図もタッチしてみると、やはり小さくなって右下に「MAP」という文字だけ表示されるようになった。

 ちょっと面白かった。


「もうツール開放しちゃって良いんじゃない?」

「……そうだな、本当はもっと時間を掛けてゆっくりって思ってたんだけどよ」

「エマージェンシーツールだけ表示されてる方が変だよ」

「それもそうだな。……っと先に二人で様子見てきてくれ」


 僕たちは二つの寮の前に着いていた。


「その間にツール開放しておくよ」

「わかった。麻揶、行こう」

「うん」


 美樹と麻揶が女子寮の中に走っていく。

 雷弩が何やら空中で手を動かすと、突然視界の右側に、新しい四角い窓が表示された。半透明で少し綺麗だった。


「その基本ウィンドウに、このヴァーチャル世界で使うことの出来るツールが格納されてる。リストを選べば各メニューが表示されるぜ」


 リストを見るとSYSTEMとかFRIENDとか並んでいた。

 しかしこれを見ても、僕はまだ信じ切れなかった。


「本当に……ここは仮想の世界なの? 感覚だってちゃんとあるし、そう! 学園祭なんて段ボールとかガムテープまで使ったんだよ? あんなの計算できないでしょ?」


 僕はあまりコンピューターには詳しくない……少なくとも思い出せる限り、この世界をコンピューターに表現させるとしたら、そうとう難しいと思う。


「俺もよく知らねぇんだけど、その辺の物理演算はうまい誤魔化しかたがあるらしい、一つ一つに簡略化したデータと複数個のランダムで、ほとんど違和感なく表現できるらしいぜ? 要は人間に対してリアルっぽければいいって事らしい」

「一番データを使うのがグラフィックって聞いたッス! 視覚情報だけはコンピューター側で作り込んでから送り込むからって聞いたッス! 音は簡単らしいッス! 触覚と嗅覚はかなりいいかげんに作ってあるらしいッス! よくわからなかったんスが、脳の方が補正してくれるらしいッス!」


 いいかげん?

 僕はやはり信じられなくてブロック塀を叩いてみようと思い、壁に視線を移してギョッとした。ブロック塀は妙にのっぺりとしていて質感がなかったのだ。

 昨日まで、もっと、ざらざらした重量感のある見た目だったはずだ。

 良く周りを見渡してみれば、樹木や葉っぱ、アスファルト、鉄柵、ガードレールにインターフォン、目に入る全てがのっぺりとしていて、急に世界が別の「何か」に見えてきた。


 僕の様子に気付いたのだろう。雷弩が声を掛けてきた。


「人間、気がつかなきゃ、全部が本当に見えるんだよ、慌ててたとはいえ、風景だってそんなもんさ」


 僕は言葉を失った。つまりいいかげんに作るとは、僕たちが気がつかないギリギリのラインで作っている、ということなのだ。


「味覚はかなり気合い入れて作ってるらしいッス。この世界の基本道楽ッスから」


 それにしても……と思う。


「ねえ、なんでこんなにリアルに作ったのかな? 元がゲームなら、こんなのリアルすぎて不便だし楽しくないと思うんだけど」

「ああ……」


 雷弩がつまらなそうに答えた。


「ゲーム中心の世界ってのもあるぜ? 俺なんかはそっちのワールドに長くいたんだよ。良く聞くだろ? 剣と魔法のファンタジー世界ってやつだ」


 想像するとそれは恐ろしいもののように思えた。このリアルな空間に、巨大な竜が現れたら、僕は泣き叫ぶかもしれない。


「いや、あの世界はグラフィックとか甘いよ。良く出来たオンラインゲームの中に迷い込んだ感じか? まぁ元々ゲームのエンジン使ってる訳だから当たり前なんだけどよ。だからこのワールドに来たときは、俺だって腰を抜かしそうなほど驚いたぜ。あんまりリアルなんでよ」


 そう、今は少しのっぺりとした印象だが、昨日までは空気まで感じられるようだった。


「それにしても……リアル……だったね」


 過去形になってしまった。


「地球温暖化を100年先までシミュレートするのに……」


 雷弩が壁に寄りかかる。


「フロア一面のスーパーコンピューターを使ったらしいが、この世界を作るのに、ビル丸ごとスパコンで埋め尽くしてるらしいぜ?」


 それがどのくらい凄いことなのかは僕にはわからなかったが、ニュアンスから相当凄いことなんだろうと伝わってくる。


「お金が掛かるんじゃない?」

「そりゃすげぇらしいぜ? でもこの世界を望んでる人間がパトロンだから問題ねぇんだろ」


 この世界を望んでる人間?

 それを尋ねようとしたところで、美樹と麻揶が女子寮から飛び出してきた。


「駄目! いない! 全部の部屋見たけどいないの!」


 美樹に焦りの表情が浮かぶ。やはりこの表情が作り物だとは信じがたい。


「まじいな……」


 雷弩にもその表情が伝播する。


「雷弩、何がそんなにまずいのさ?」


 我慢出来ずにとうとう聞いてしまった。


「お前ならもう分かってると思うけどよ、状況だけ見りゃ亞璃栖が真っ黒ってこった」


 何が。とは聞けなかった。

 先ほどの不正アクセス者という言葉が頭の中に蘇る。


「どうするの?」


 美樹が雷弩を見る。


「どうするって……捜すしかねーだろ? 三手に分かれよう」

「わかった。組み合わせは?」

「俺と佑、美樹はスキルが高いから悪りぃけど一人で頼む」


 美樹と佑が頷く。


「麻揶は零と組んでくれ。……そうだな学校周辺を、ゆっくりでかまわねぇから」


「うん」と麻揶が答えた。


「蒼流がいりゃあなぁ……」


 最後のつぶやきは誰かに言ったものでは無いだろう。


「よし! 三時に駅前、昨日の場所に集まろう。他のGMより先に亞璃栖を見つけろ。とにかく事情が聞きたい」


 全員返答して三方へ散った。僕は麻揶について行く。彼女は走っていたけれど、僕は早歩きで追いついていた。

 学校の門の前で一端立ち止まる。


「学校の中にいたら……もう別の人が見つけてると思うの。外を捜してみましょう」

「そうだね。でもどこを注意して見れば良いんだろう?」


 僕は細い路地を覗き込んだ。


「近くに行けばエマージェンシーツールが反応するから……不正アクセスならね……」


 彼女の声は尻窄みだった。


「不正アクセスをしていなければ?」

「亞璃栖が正常にアクセスしているのなら、私のフレンドリストに入ってるからマップに位置が出るわ。彼女が表示拒否してなければだけど」

「フレンドリスト?」


 反射的に聞き返してしまった。


「えっと、ツールのリストにあるFRIENDをタッチしてみて」


 言われたとおりやってみる。

 目の前に新しいウィンドウが現れる。登録者0名と表示されていた。


「エマージェンシー中に追加できるかな?」


 彼女が空中を何度かタッチする。数瞬後、目の前に新しいウィンドウが表示された。

『友達登録の申請が[MAYA]さんから来ています。登録しますか? YES/NO』


 そんな風にウィンドウには書かれていた。


「零くん。そっちにウィンドウでた?」

「でた……友達登録するかって」

「じゃあYESを押して」


 僕がYESの文字を押すと、ウィンドウの文章が変わる。


『新しく[MAYA]を登録しました』


 二度その文章を読んでから、そのウィンドウをタッチする。ウィンドウはすっと消えた。

 開きっぱなしになっていたフレンドリストの登録者数が1名に変わっていて、リストに[MAYA]が追加されていた。


「私の名前表示された?」

「うん。漢字じゃないんだね」

「私は別のワールドから来たの……誰かにその話は聞いた?」

「うん。雷弩が剣と魔法の世界から来たって」

「私も同じワールドだったの。雷弩とはずっと一緒だったのよ。その時の名前がシステムには引き継がれてるの。他の人は漢字のはずだよ」


 学校で使っている名前と違っていてもかまわないものなのだろうかと、少しだけ気になった。


「私の名前をタッチして……MAPの表示をONに変えてみて?」


 言われたとおりの動作をする。

「MAPを開いて」


 僕は視界の右下に申し訳なさそうに小さくなっていた『MAP』の文字をタッチした。目の前に大きく地図が表示される。


「設定をタッチして中心を自分に変えて、あと縮尺を……そうね50mに」


 地図の表示がグッと拡大され、細かな道まで綺麗に線で表示された。すぐ横のピンクの三角が僕を表す三角と向かい合っている。もちろん麻揶だろう。


「便利だ……」


 思わず本音が出てしまう。


「今は出来ないけど……というより、このワールドでは原則禁止なんだけど、フレンドリストの中の音声通信か映像通信を選べば、その人と会話可能なの。自分の部屋からなら出来るようになっているわ。相手も自室にいることが条件」


 それを聞いて試してみたいと思ったのは、この状況下では不謹慎だったかもしれない。


「なんで使えないの?」

「このワールドのテーマがリアル……だからよ」


 僕は唸ってしまった。


「便利なのにね」

「それが問題だったみたい。皆がどんどん、より便利なツールを求めて、本来の目的から外れていったのね。元々グラフィックの関係とかで、随分オンラインゲーム寄りだったから」

「本来の……目的?」


 彼女は少し考えてから続けた。


「本当は暮らすために作られたシステムだったんだけど、ファンタジー世界……雷弩から聞いたんだよね? 剣と魔法の世界ね、ゲーム会社のグラフィックとシステムを多用したから、そのままモンスターなんかと戦える世界だったの」


 彼女は歩き出した。


「検索しながら話すね」


 彼女の後を追おうと思ったが、目の前の地図が邪魔だった。


「まって、このウィンドウ小さくできないのかな?」


 彼女は戻ってきて答えてくれた。


「えっとね、ウィンドウを片手でつまんで動かすとウィンドウは好きな場所に動かせるわ、角度もそれで変えられるの。大きさの変更は、両手でこう……」


 両手を突き出し、ラッパーがやりそうな手つきを見せた。


「ウィンドウの対角をつまんで変えられるわ」


 地図ウィンドウを片手でつまんでみる。手の動きに合わせて位置を変えられた。手首の動きに合わせて奥行き方向にも変えることが出来た。両手で対角つまんで引っ張るとウィンドウの大きさが自由に変えられた。それがとても面白くて何度もやってしまった。


「出来た?」


 麻揶が聞いてくる。僕が慌てて出来たと答えると、彼女は笑みを作って歩み始めた。

 一分ほど無言だったがぽつぽつと続きを話してくれた。


「剣と魔法の世界ではね、大きなお城があって、城壁に囲まれた町があって、その外に敵と言われているモンスターが徘徊してるの。恐竜みたいなのとか、イソギンチャクみたいなのとか、いっぱいいるの」


 彼女は時々道を曲がって、路地を覗く。僕も追うように同じ所を覗いた。それは無駄なことだとわかっていたが、どうしても同じ事をしてしまう。

 GMツールのない僕が何かをしてもあまり意味があるとは思えなかったが、やはり彼女と同じように路地を覗き込んだりした。


「それでね、そのモンスターを倒すと経験値っていうのがもらえるの。ただの数字なんだけどね、その数字が増えると自分がどんどん強くなれるんだ」

「強くなるって……どんな風に?」

「魔法が沢山使えるようになったり、ジャンプ力が高くなったり、色々かな」

「え?」


 僕は変に思った。魔法が増えると言うのは何となくわかるけど、ジャンプ力が高くなるという理屈がわからない。そんなのは自分の体力の問題だから、変えようが無いじゃないか。


「零くんは、ここからどの辺までジャンプで飛べるかな?」


 麻揶が立ち止まって自分の足下を指差した。僕は立ち止まって距離を目測する。少し先のタイルを指差して「あの辺かな?」と答えた。


「じゃあ飛んでみて」


 僕は少しだけ助走して思いっきり跳んだ。目印のタイルより少し遠くへ跳んでいた。


「ね」


 彼女が少し笑った。


「全然わからないよ」


 何が「ね」なのかさっぱりわからなかった。


「つまりね、自分がどのくらい跳べるかなんて、自分でもよくわかってないの。イメージと実際の距離が違っていても跳べるわ」

「そうかもしれないけど……」


 うまく言葉にならないが、やはりうまく跳べるとは思えなかった。


「零くん」


 彼女がさっきと同じ場所を指差して聞いてきた。


「ここからどこまで跳べる?」


 彼女は笑顔だった。


「え? それはもちろんここ……あっ!」


 僕は自分が立っている場所を指差しながら気付いた。


「そうか……自分のジャンプ力は実際に跳んだ経験から逆算して脳が理解していくんだ!」


 彼女は嬉しそうに笑った。きっと先生にでもなった気分なのだろう。


「そうなの。仮想世界で跳べた距離が、自分の跳ぶ力にちゃんとなるの。経験値は少しずつしか増えていかないから、飛距離とか高さも少しずつしか増えていかないし、違和感は全く無いの。私はこのワールドに来たとき全然跳べなくなってて気持ち悪かったくらいよ」


 僕は想像してみた。

 モンスターを沢山倒して、だんだん自分が強くなるところを。それは凄く気持ちよさそうだ。違和感よりも、もっと遠くに跳びたいとかもっと強くなって強い敵を倒したいとか思うだろう。


「楽しそうだね」


 その世界に行ってみたいと思った。


「そう。楽しかった……でもね、楽しすぎたの」


 彼女の表情が一変する。


「それってなにか駄目なの?」

「みんなね……そう、強さに魅了されちゃったのよ。朝から晩まで、ずーっとモンスターを倒し続けるの。自分が成長するスピードはだんだん遅くなるから、強くなればなるほど、よりたくさんのモンスターを倒さなきゃいけない。ある程度以上強くなるとね、より効率良く成長させることばかりになっていちゃったの」


 僕はその言葉を聞いただけではそんなに大変な事には思えなかったが、彼女の表情を見ればそれは言葉以上の重みを持っていることだけは分かった。


「どの敵を、どのくらいの強さの時、どの武器で、どの魔法を使えば、より短時間で倒せるか、とか、不思議とみんなそうなってっちゃうの。強くなるとね、少し成長させるのに何ヶ月もかかるんだ。みんなだんだんギスギスしてきちゃうの。敵も一人では倒せなくなっちゃうから、何人も束になって敵を倒すようになるんだけど、攻撃の仕方が悪いとか、魔法のタイミングが良くないとか、もうそんな話ばっかり」


 彼女は近くのガードレールに腰掛けた。


「開発者側への要望も、強くなることと、便利なツールを作れとかばっかりになっていって、それでいつの間にか不正なツールが出回るようになったんだ」


 僕は不正なツールという単語にびくりと反応してしまった。


「クローズドなシステムだったから、きっと関係者が作ったって言われてるんだけど、結局作った人はわからなかったわ」


 彼女は空を見上げて、少し間を置いた。


「でも、そのツールのやりとりには現金が使われていて、アジアのどこかに送金されていたらしいわ」


 そのまま空白の時間が過ぎる。

 不謹慎だけれど、面白かったこのお話も、ここでお終いらしい。


「亞璃栖を捜そう」


 彼女の横に立って言った。


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