黒い空間2
……ダイヤモンドの価値は、その美しさや希少性もさることながら、その硬さによるところも大きかった。
その硬さ、自然界では最高硬度、人工物を含めるならオリハルコン合金のような、より固い物資があるものの、それでも上位三位以内に必ず入っている。
あまりにも硬すぎるため、昔は研磨する術がなくて、宝石としての価値のない、ただ硬いだけの石、使い道としては他の金属を研磨する砥石だけだったらしい。
そんなダイヤモンドが砥石から宝石に変わったのはとある方法、ダイヤモンドでダイヤモンドを削る技術の発見によってだった。
この革命により暴き出された透明度、その輝き、色合い、その美しさ、それをより極めようと、多くの職人が従事し、研究を重ね、そして新たな発見に至った。
それは、実はダイヤモンドは割れやすいこと、正確には裂けやすいという事実だ。
例えるならば、一枚の布を左右に引っ張って伸ばした時、ちょっとした切れ目に力が集まってそこから一気に千切れるように、ダイヤモンドも目に見えないほど小さな傷に力が集まって裂けてしまう。
石ごとにある結晶の流れとか、傷の有無にも左右されるけど、これを利用すれば、ダイヤモンドよりはるかに柔らかい鉄のノミで叩くことで、より複雑なカットが実現できるようになったのだ。
……事前に学んでおいた、ダイヤモンドに関する基礎知識、あったから、だから、この輝きも落ち着いて見れた。むしろこうなるのが普通、ならなかったのは、マミーがおかしかったからでしょうね。
考えながらぼんやりと、衝撃の後に降り注ぐ数多の輝きを見る。
僅かな光でこうも輝けるのはダイヤモンドの鉈、エレナの懐中時計に当たり、砕け散った結果だった。
……咄嗟の行動、ほぼ条件反射、懐中時計で身を守り、結果としてあたしは生き残って、ダイヤモンドの鉈は砕け散った。
まさかの破壊、互いにあっけに取られて固まる。
そこから、先に動けたのは事前知識を持ってたあたしの方だった。
左手の懐中時計を引っ込め代わりに右手で杖を引き抜きガッツへ向ける。
対してガッツ、一瞬遅れて左手の鉈の残骸を捨て、同時に右手の毒手を杖を掴みに伸ばしてくる。
とられたらお終い、だから呪文を最速で言い放つ。
「এটি কত খরচ হয় তা বিবেচনা করে না!」
『ジェット・ウォーター』
水を呼び出し指向性を持たせて打ち出す水の鞭、今回は速度重視の詠唱破棄、最低限の呪文で作り、放った。
青い光、吹き出る水、突き出された右手に当たる。
……けど、弱い。
失敗と言っていい程度の威力、水は出てるけどただ噴き出してるだけ、口に含んで吐き出した水の方がよっぽと威力があるような、へなちょこの水流、しかも狙いはガッツの右手、防御している上への水流だった。
悲惨な魔法、攻撃どころか嫌がらせでしかない。
なのに、ガッツには効果抜群だった。
「くっそおおおおお!!!」
絶叫、ガッツの顔が苦痛に歪み、右手を振るって後ろに下がって水流から、逃げていく。
何で?
やったあたし自身が驚き名がガッツの顔を見返して、理解した。
その顔は、黒く変色していた。
いえ、変色どころか爛れて、酷いことになってる。頬は腫れ、前髪は抜け落ち、首の血管は浮き出て、見るも無残な姿になっちゃった。
いきなりなグロテスク、だけどこれは、この症状は毒だと思い、それで気が付く。
爛れの原因は毒手、枯れ枝のような手、触れるだけで爛れる猛毒ならば、水に溶け出て広がってもおかしくない。だったら水流で弾かれた水しぶきが当たってあぁなるのも納得だわ。
毒手の弱点は水、二度と使わないでしょう重要な知識ね。
思うあたしを、ガッツは残る一つ目で思い切り睨みつけてくる。
「舐めた手を、ぶち殺してやる」
怒り心頭なガッツへ、やって見なさいよと言う舌がない。
それどころか水流も止まって、出してた杖を持ってるのがやっとの疲労、疲弊、詠唱破棄の反動、一気に来た。
幸いこれは、疲れて動けないんじゃなくて息が切れてて動けない状態、だから呼吸を整えるぐらいの時間があればすぐに回復できる、はずよ。
その時間を稼ぐため、元気な振りをするため、杖をかざそうとして失敗した。
ポロリ、杖が手から落ちる。
軽い棒でしかないのに、それを握れないほどの疲弊、拾い上げられないほど困憊、弱った可愛いあたしの姿を、ガッツに見られた。
「……終わりか?」
怒りに満ちて逆に静かになった声、毒液を滴らせながらガッツが問う。
左手で額を拭うとごっそり皮膚が剥がれるほどの侵食具合、明らかに毒で弱ってるガッツ、なのに眼帯に隠れてない一つ目は、怒りにランランと燃えていた。
あぁ、これは、だめっぽいわね。
魔力消費で思考も鈍ってる。
アイディアも出ず、言葉も出ず、ただ漠然と、これで懐中時計のこと謝らなくてすんだわ、なんて、考えてた。
「貴様、楽に死ねると思うなよ」
悪役みたいな、ガッツのセリフ、本当の悪役だから似合ってた。
そうして逃げた分、前に出て、あたしに下たる右手を突き出した。
その時だった。
バフン!
闇から飛んできた塊、ガッツの右手へ、絡まって止まったのは布を丸めたもの、見覚えのある、血の染みもあるマントだった。
「へ! み! り! あ! とうぅ!!」
一歩ごとに言葉を吐きながら足から飛び込んできたのは、他にないわ、エレナだった。
闇から飛び出し、綺麗なフォームで胸を揺らしながらの飛び蹴り、マント越しにガッツの右手にめり込ませ、吹き飛ばす。
「ぐっ、あっ」
浸食とは違った苦痛の表情、蹴り飛ばされてよろけてそれでも踏みとどまった。
「ヘミリアごめん! ちょっと寝てた!」
変わらず元気なエレナ、だけどあたしに振り返った顔にはまだ流血、左手で拭っても滴る血液は止まってなかった。
これは、大丈夫じゃない。
「生きてる? 生きてる? あ、マミー!」
足元に転がってたマミーの残骸に驚いて足をどかす。
「…………死んじゃった?」
「みたい、ね」
「あーー、あ、でもこれ、あ、この可愛い子どうしたの? こんにちはこんにちは、あ、あーーー! わたしの時計!」
一通り騒いで最後に落ち着いたのが、懐中時計、投げっぱなしだったのを両手ですくうように拾い上げる。
……流石に凹んだのか、いたたまれない感じになってた。
「悪かったわよ! 後でおんなじやつ買ってあげる!」
「え、えーーーー。そーゆう感じなの?」
「だまらっしゃい! だったらどうしろってのよ!」
あたしが死闘を切り抜け限界超えて、魔力切れで疲れ切ってるってのに、エレナは子供みたいに口をとがらしてる。
その様子にいら立ったのはあたしだけじゃなかった。
べちゃん!
濡れた布が叩きつけられた音、ガッツの右手にあったマント、振り落とされると、まるで腐った野菜みたいに床でグジュグジュと溶けて行った。
そして構えるガッツへ、エレナは静かに向き直る。
「……辞めない?」
エレナいきなり言う。
「その体、もう無理だって、休んだ方が良いよ。今ならお互い大変だったねーで同窓会できるしさ。何ならほら、解毒ポーションも上げるから、さ」
軽い調子、誰とでもするように打ち解けようとするエレナに、ガッツが何か言い返そうとして、代わりに歯と血を吐き出した。
「ほーら、むーり、休もーよ。それにここってこればっかだから、下手に切り合って火花なんか出たら一緒に死んじゃうよ?」
そう言ってそこらの黒い石を蹴るエレナ、それを見たガッツは、転がる石を見てから、精いっぱいの邪悪な笑みを見せた。
「え、嘘、わかってる? 辞めよ? ね?」
焦るエレナの説得を無視してガッツ、そこらの黒い岩を蹴り始める。靴底に金属でも仕込んでるのか軽々と岩を砕いてはできた粉塵をさらに蹴り上げ辺りに舞う。
その光景、鬼気迫るものがあって、琥珀の虫が怯えてあたしの足の間に潜り込んでくる。
「あーーーヘミリア、魔法、出して」
「何でよ」
「いやこれ石炭」
言われて、意味を考え、これまでを振り返って、察した。
まさか、アレ狙い?
「早く言いなさいよ!」
叫び這いずり杖を拾い、ペタンと座った格好で、呼吸を整え、杖の先をガッツへ向ける。
「আমাকে পানি দাওぉお」
声がかすれた。
魔力切れ、回復が間に合ってない。
それを笑ってか、ガッツが左手で床の粉の塊を掬い上げ天高くばら撒いた。
舞い散る粉塵、あっという間に濃霧のように視界が閉ざされ、ガッツの姿が見えなくなる。
その中へ、エレナが踏みこみ切りこんだ。
「わんだばー!」
気の抜ける掛け声、それでも斬撃は鋭く、黒の濃霧を切り裂きわずかに視野を開いた。
そこから垣間見れたのはガッツ、踏み込もうとしてた姿、粉塵に紛れて接近しようとしてたらしい。
だけどそれも失敗して、いよいよ時間がない。
だからこれが最後、全力の魔法を唱える。
「এটাই শেষ.এটি সর্বশেষটি হলেও, দয়া করে আবার জিজ্ঞাসা করুন আপনি তারিখগুলি বিস্তৃত করে কিনা।পানির অভাব এখন জীবন-মৃত্যুর বিষয়।আপনি যখন মারা যান, তখন আর কোনও উপায় নেই।এত কি জিজ্ঞাসা করা ঠিক আছে?」
呪文、長くなる。
狙ってじゃない。ただ発動しないだけ、それを詠唱延長で誤魔化そうとしてる。
けどできない。
杖の先、弱弱しい光、点滅して、あからさまに魔力不足、詠唱破棄から連続での魔法しようとかプロでも難しいのにあたしができるわけがない。それを無理強い、やらせてくるんだからあたしは悪くないわ。
それでもやる。
「অনুগ্রহ.অনুগ্রহ.আপনি এটির জন্য শ্রদ্ধা নিবেদন করার পরে এটি কি খুব ভয়ঙ্কর নয়? আপনি একটি চুক্তি পেয়েছেন, তাই না? এর সাথে যদি কিছু হয় তবে কনজিউমার অ্যাফেয়ার্স এজেন্সি নীরব নয়?」
ごり押し、だけど届かない。
そうしてる間にもガッツ、粉塵の中で引き抜いたのは、見覚えのあるナイフ、発熱してタバコに火を点けたアーティファクト、そいつをかざしている。
「ヘミリア!」
叫ばれなくてもわかってる。もう、時間がない。
「অনুগ্রহ. দয়া করে প্রস্রাব করুন」
最後に絞り出す呪文詠唱、だけど不発、光はしても水なんかはちょろりとも出ない。
これで終わり、時間切れ、魔力切れだし体力も切れちゃったわ。
酷い幕切れ、せめてエレナに謝っとけば、心残りが無くて完璧な魔法ができたかもしれないのに、沈む心に軽い杖、持てなくなって、腕が下がってく。
そんな状況、わかってない琥珀の虫、背伸びして伸ばした前足で、あたしが下げた杖に前足を伸ばす。
そして触れた瞬間、弾けた。
眩い閃光、青、溢れる魔力が奔流し水も出してないのに杖を跳ね上げる。
そして現れる幾何学模様は最大サイズ、その光だけで周囲一帯を眩く照らせる。
ゾクりとする間隔、これまでで経験したことのない圧倒的な魔力、あたし、覚醒してる。
あと一押しで魔法の完成、この規模、どうなるか想像もつかない。
「すっご」
雑な感想を述べながらあたしの後ろへ戻るエレナ、ここで気の利いたセリフの一つも履ければ可愛いのに、そんな余裕はない。
ガッツ、ナイフ、粉塵の中で白熱する。
その刹那に、あたしも最後の呪文を唱える。
「প্রচুর পরিমাণে পান」
完成、同時に、あたしの意識は飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます