神話の奥へ3
…………あたしは、冒険しにここまで来た。
度重なる困難、荒くれる自然、猛威なモンスター、それらを知恵と勇気で乗り越えて、舞台化確実な夢踊る冒険が待ってると、思ってた。
そのために準備もしてきたし、なんでもする覚悟だった。
だってのに、あたしは何でまたこんなことやってるのよ!
……じょぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽとととっ。
吐き出したい思いを飲み込み、また一つ、いっぱいにする。
…………正直、白アリ人間たちが跪くのは、気持ち悪いけど、悪い気持ちじゃなかった。
それでも意味も言葉もわからないでいると、彼らが道を開いた。
罠っぽい? 疑うあたしをぐいぐい引っ張るエレナ、導かれるまま向かったのは、廊下を抜けた先、やたらと大きくて明るい部屋に通された。
そこに待ち聳えていたのは強大な白アリ人間が二体、やたらとお尻が大きな四本腕二本足と他と比べても小さすぎる二本腕四本足、その手前に並ぶ白アリ人間たち、玉座も王冠もないけれど、この二体が王と王女だとわかった。
そんなに対含めて白アリ人間たちがまた跪いて、触覚をピコピコさせた後、奥から四本足二体が運び込んできたのは、ひっくり返されたカタツムリの空の殻だった。
……その意味に気がついなのはエレナ、あたしを肘で突き、それか杖を指さした。
まだわかってなかったあたしが杖を抜くと、白アリ人間たちが盛り上がったのがわかった。
「ほら、この人たち、エレナのお水が欲しいんだよ」
エレナに言われてようやく、あたしがやってたのが攻撃ではなくプレゼントだったと気が付いた。
そして答え合わせ、場の流れ、無言の期待に応えるべく、呪文を唱えて水を満たした。
……冷静に考えれば、対価を求めるのはあのタイミングだったはず、なのに何も考えずに言われてもないのに、いいように水出してた。
思えば、戸惑いながらもあたしは良い気になんてたのよね。
あたしの水魔法は大したことない。
できるのは初級から中級の下ぐらい、出せる水の総量こそたっぷりだけど、そこは事前にたっぷりお金で底上げしてるから、見る人が見れば、はっきり言って子供、自慢げにしてたのが恥ずかしいレベルよ。
それでもさも天才か、あるいは救世主? 下手したら神様?
未開のモンスターでも崇められるのは気分が良かったわ。
だから跪かれるがまま、自慢げにドンドコ水だして、満たして、いっぱいになったら新しいのが運び込まれる
終わりのない給水、あの未開地でやってたことと同じだった。
あたしはこんなにちょろい女じゃないわ。
思っていても、言って伝える手段もなく、無視して突っ切る勇気もなく、運び込まれたカタツムリの殻にまた杖を突っ込む。
……これじゃ仕事ね。
「あーーーこの子ヘミリアそっくりーー」
のんきなエレナ、笑顔で抱きかかえてる幼虫白アリ人間の顔の上で指をひらひらさせてる。
「ほらほら、口元とか首の傾きとか、不機嫌そうに眉ひそめてる感じ、この触覚の感じとかそっくりじゃない?」
勝手になんか言ってるエレナ、そこにそっと差し出された四つ腕へ幼虫白アリ人間を渡すと、代わりに横から差し出された別の幼虫白アリ人間を受け取る。
そしてまたひらひら、どうもこれを祝福か何かだと勘違されてるらしい。
無意味な行動、まんざらでもないエレナ、少なくともあたしよりは楽してるわね。
言って争うより、手と口と魔法を動かす方が賢い。
……じょぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽとととっ。
カタツムリの殻、いっぱいになる。
これで、最後よね?
ふぅうと息を吐きながら見回せばもう殻はなかった。
代わりに、運ばれてきたのは沢山の団子だった。
あの大きな葉っぱの上に綺麗に並べられてるのは見覚えのある形、色までは覚えてないけど、ここで見たのはあの食糧庫しかないわ。
「わーーご馳走してくれるのかな?」
冗談じゃない。
「エレナ、さっさと出発するわよ」
「えーーー」
「えーじゃない!」
「でもさ、マミーどっち?」
「それは……訊いて」
「えーーーー」
不満げに口をとがらせるエレナ、ちょっと無茶ぶりっだかもと言った後で思ったけど、それでも行動に移してた。
背中のマントを肩から前に、顔に巻き付け肩を上げ、のっしのっしと歩くさまは、マミーに見えなくもなかった。
……ただ、白アリ人間たちには的確だったらしい。
触覚をひそめ、体を強張らせ、あたしでさえわかる緊張感、タブーに触れた感じがヒシヒシと伝わってきた。
これは、やっちゃった?
「ヘミリア、ヘミリア、やっつけて」
小声でエレナが言ってくる。
しょうがない、毒で全部やってやるわ。
「違う! わたしに、杖向けるだけでいいから」
わけがわからない。けど、このままだと悪化するのは目に見えてる。
言われた通りしまってなかった杖をエレナへ向ける。
「……それだけじゃつたわんないよ。もっと演技して」
「演技って」
「いいから! やって!」
言われて焦って、思い切る。
「やーー」
「わーーーー!」
コテン。
安い芝居、短いやり取りだけなのにあたしは恥ずかしい。
エレナは平気らしい、そして手足を伸ばして痙攣、迫真のやられっぷり、あそこまで振り切れたら何も恥ずかしくないんでしょうね。。
そして肝心の白アリ人間たち、通じたのか、緊張感はほぐれてた。
◇
わかったことは、、白アリ人間たちとマミーとは敵対関係にあるらしいこと、あの臭い演技が通じてたということ、そしてそのために彼らが協力してくれるライしいこと、ね。
エレナの演技に関目を受けた白アリ人間たちの言葉のない案内に従って、部屋を出てからずっと廊下を歩かされる。
途中、通り過ぎた部屋を除けば食糧庫や幼虫だけじゃなくて、あの台を作る部屋や草を引いただけで雑魚寝の寝床、葉っぱを巻き付けて治療してるらしい病室に、光る虫を育ててる部屋もあった。
それ相応に文化文明を作ってるらしい白アリ人間その巣の大きさは想像もつかないけれど、何事にも終わりがあって、進むにつれてツルツルだった床壁がざらざらに、その内平らでもなくなって、どんどんと細くなっていく。
そしてたどり着いたのは、明確な出口、その境界線だった。
「これ、あれだよねヘミリア」
「そう、よね」
返事しながらもあたしは信じられなかった。
これまで通ってきた廊下の木目から、ぷつりと境界線で白色に変わっている。
ここから先、闇、だけど見える限り、床も壁も天井も、石でできていた。
それも、あの枝に落ちる前の小屋とかと同じ材質、つまりここから先が人工物の遺跡だった。
わけがわからない。
「前、見たことあるんだけど」
エレナが呟くように言いう。
「壊された石像の首が、地面に落ちて、その下から木が生えてきて、飲み込んじゃったの。ぱっと見、木の中に顔があってへんなんだよ」
「それが、建物レベルで?」
「ひょっとしたら、都市レベルかもしれないよ」
言われて世界樹の大きさを思い出し、あり得ると思えた。
それがこの先、続いてる。
その先に、マミーがいる。
「行くわよ」
不安はある。けどこれだけの白アリ人間、引き連れて行けば、少なくともあたしが逃げるまでの囮にはなるでしょう。
一歩踏み出すと、どいつもこいつもついてこなかった。
「あーーーヘミリア、無理だよ」
そう言うエレナ、壁に指を這わせる。
「樹液。臭いの。ベトベトしてる。これって蟻避けになるんだよ」
「何、嫌いな臭いってこと?」
「怖い臭い、かな? ちっちゃな虫さんからしてみたら触って張り付いちゃったら逃げられないからねー」
それを試すようにエレナが這わせた指を向けると、白アリ人間はわかりやすく一歩引いた。
使えない。
未熟な原住モンスター引き連れて蹂躙無双できると思ったに、水やっただけ損じゃないの。
それでも震える手で差し出してきたのは灰色の玉がいくつかと、あの光る虫一匹だった。
「灯りと、餌だね。選別にくれるみたいだよ」
そう言うエレナ、受け取ろうとしない。
「……ほら、これだから」
そう言って這わせた指を見せてくる。
だったら、あたしが受け取るしかない。
灯りは便利、あった方が良い。気持ち悪いのが、なんなのよ!
唾を飲み、息を止め、手を伸ばして、先ずは玉の方から受け取った。
……凄い臭い玉だった。
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