神話の奥の遺跡1
いよいよ、ようやく、それらしい感じには、なってきたわね。
世界樹の内部、原住民モンスターが恐怖で踏み入れない未開地の更なる未開地、飲み込まれた遺跡、まさしくじゃない。
元は別だったらしい建物が並び、押し込められて、組み合わさった複雑な迷宮、壁はひび割れ、天井からはは固まった樹液、床にはキノコ、窓や隙間からはむっちり木目がはみ出して、世界樹の圧力によって握りつぶされようとされてる感じがはっきりと、悪夢時見た内装ね。
ここは、これまでの旅の中で一番それっぽい雰囲気はあるわね。
まさしく伝説の眠る最終ダンジョン、想像を超える真実がこの先に待ってるのよ。
そんな中を進んでいくあたしは物語の主人公の気分、になれるはずが、そうはならないとこの旅で学んだわ。
「見て見てほらほら、食べてる食べてる」
嬉しそうにビンの中、一緒に入れた臭い玉を貪っていた。
……その姿、見てるだけでも思い出す。
ブニブニとした感触、変に暖かな体温、湿っていて、動く。それが手の上に留まらず手首から腕に、更に肩にまで上ろうとしてきた。気持ち悪い。
「なついてるねー」
振り払い叩き落すわけにもいかないあたしへ、のんきに話しかけてくるエレナ、だったらと声に羨ましさが隠しきれてなかった。
だったらと差し出しても樹液を理由に断られる。
そこで賢いあたしはアイディアを、厄介払いと恩を売る同時に成し遂げる素晴らしいアイディアを提案したら、満面の笑顔となった。
あの糞村で買わされたハチミツのビンの中、中身を二人で飲み干し、残った分は水洗い、残ってた布で中を拭いて、そのまま入れたまま入れて、灯りはビン詰めとなった。空気を入れ替えるために蓋は緩めだけど、元から裸で平気だったし、こいつには樹液の臭いは関係ないようね。
そのくせ炎は恐いらしく、着火したらビンがなるほどに暴れまわった。
お陰で乾いた松明も使えないで、そこそこだけど一個しかない光源だけで二人、進むしかなかった。
……逆に捨てって松明で行った方が効率的じゃ?
思いながら見てると、威嚇か、あたしに口を左右に開いてきた。
「おねむかな?」
「欠伸には見えなかったわ」
緊張感のない会話を挟みながらも足は止めてなかった。
そしてまた分かれ道、斜めに傾いた建物からもたれかかった隣に通じる窓か、傾きでひっくり返って平らに近くなってる階段、目印も痕跡もないからどちらが正解かなんてわかるわけない。
だから勘よ。
「こっちね」
「え!」
「何よ。階段の方がそれっぽいじゃない」
「えーーー、でもほら、そっちだと戻る方向だよ?」
「だまらっしゃい。こんな入り組んでるとこで方向なんかわかるわけないでしょ」
「わかるってー。それい風来てないからそっち行き止まりじゃない?」
背中に言われながら半分まで行ってみれば、むっちり木目がみっちり詰まって道はなかった。
「ね?」
勝ち誇ったようなエレナ、戻るあたしに目もくれず、抜いたサーベルで床を引っ掻く。
掻き残してるのはメッセージ、冒険者だったら誰でも知ってるらしい記号、矢印にバツ印は『この先行き止まり』わかりやすくて暗号にもなりゃしない。
そいつを跨いで戻って、そして窓の方へと進んで行く。
……こんな感じで進んでく。
斜めにひっくり返った家を抜け、逆さになった橋を潜り、なんだかわからないものを避けて通る。
聞こえてくるのはあたしたちの足音と、こーー、と流れる音、エレナ曰く樹液の流れる音らしい。そして見えるのは白い建物の残骸と世界樹の木目、樹液の氷柱、それ以外にも色々残されてた。
先ず多いのがお皿、割れているのも多いけど、そのまま使えそうなものがいくらか、ただカビなのかキノコなのか張り付いていてバッチかった。
それと錆びた何か、正確には錆びの塊、錆て崩れて山になってる。それだけでこの遺跡と一緒に残されたのかどうかもわからなかった。
そして金、あの指輪も、一つだけ見つけられた。ただし木目に埋没してて、ナイフで穿り返そうとしたけどダメだった。
珍しいものはあってもお宝は無くて、だけども危険も脅威もない、お散歩みたいなダンジョン攻略になっていた。
……そしてお決まりのように、広い部屋へとたどり着いた。
斜めに崩れた壁を抜けた先、声が響くほど広い空間、天井は虫の灯りが届かないぐらい高く、広さは広すぎてわかんない。
そしてその真ん中に、鎮座するものがあった。
「……ヘミリア、作り物だよね?」
「当たり前でしょ」
そう答えながらも半信半疑で見上げるのは、巨大な竜の石像だった。
鋭い爪で土台を踏みしめ、全身の鱗を逆立てて、鋭い牙の並ぶ口を大きく開いて咆哮しているさ様は、今にも動き出しそうな迫力がある。
だけど、所詮は石像、闇の中で浮かび上がってるからそうみえるだけで、実際には動くわけがない。
……それでも一歩踏み出すのにはちょっとためらった。
「はえーーー、ほら見てごらん。ドラゴンだよー。大きいねぇ」
自分で驚きつつもエレナ、目があるかもわからない灯りの虫に石像を見せる。
「バカやってないでさっさと行くわよ」
広い部屋の中、真ん中を斜めに進んで、像の左側正面に、そこから奥を照らすとうねる尻尾の向こうに行けそうな穴があった。
「あっちね」
エレナに聞こえるように言ってから一歩、進む。
ずううん。
揺れた。
「……ヘミリア、感じた?」
「感じたわよ」
応えて、顔を見合わせてから、ドラゴンの像を見上げる。
開いた口の顎の下、影になっててよく見えない。
ずううん。
また揺れて、影も動いた。
ずううん。
灯りの虫、暴れてる。
ずうううん。
これは、やばい?
ずうううううん。
「エレナ!」
叫んで走る。方向は奥、尻尾の先の穴、ドラゴンから逃げないと。
「ヘミリア!」
呼びながら伸ばした腕があたしの肩を掴み、そこだけであたしを引き戻す。
「何よ!」
叫び振り返ると同時に今度は両腕で、肩周りに腕を回され、灯りと一緒に抱き上げる。
熱くて厚い胸、押し当てながらエレナは来た道を逆走する。
「ちょっと!」
叫ぶと同時に影が、無視できない影の動きが、あたしの背後に起こった。
ずすうううううううううんん!!!
そして振動、これまで以上、そして突風と悪臭、振り返るしかない圧倒的存在感は、ドラゴンの像をはるかに超える巨体、巨大ムカデだった。
サイズ、種族、鏡岩でみたやつと同種、だけどこいつは、全身から黒緑のでろでろ液を滴らせてる。
「あーーこいつ、あそこで見たやつじゃん」
あたしを抱えたまま走りながら、エレナは平然とした声を出す。
「あそこって鏡岩?」
「そーー。だってほら、顎の欠けたとこ一緒じゃん」
言われてわかるものかと見上げればムカデ、顎を広げて頭を上げるや、真下、正面、でろでろまき散らしながら、あたしたち目がけて叩きつけてきた。
その下より、エレナ、あたしを抱えたまま跳んだ。
刹那に背後から、振動と風圧、見なくても即死を連想させるには十分よ。
それに臆したか、エレナがあたしを落す。
ちょうどいい。自分で走るわ。
着地、同時に走りながら魔法、今度こそ毒、遠慮なくぶちかましてやるんだから。
「ヘミリア!」
ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
背後から声と大きな音、呪文の出鼻を潰された。
何よ、と振り返ればムカデ、迫ってた。
でかいくせに静かな動き、だけど速さと迫力は色々とけた違い、踏まれたら死ぬ。
逃げる。
本能、一心不乱、横へ、前へ、飛ぶ。
チリッ。
マントの端、掠めて、それだけですんだ。
危なかった。
避けれたあたし、足がもつれて、だけど転ばなくて、だけど足が止まってた。
その背後、あたしを捕まえ損ねたムカデはでろでろ撒きながらそのまま直進、壁へと激突した。
ずううううううううんんん!!!
部屋全体、世界樹そのものが揺さぶられたかのような振動、同時にそこら一面にでろでろの水溜まりが出来上がる。
のぼせ上がる刺激臭、危なく踏みそうになって慌てて飛び退く。
「……見えてなかったんだ」
「そりゃそうよ。あたしの背中に目があるように見える?」
「そうじゃなくてムカデ、こいつ、ヘミリアとは全然違うとこ向かってた」
「……そう?」
「そうだったよ。それに、こいつ、長さが半分になっちゃてる」
…………エレナの言葉の意味がよくわからなかった。
それで、ムカデを見て見たら壁に当たったまま、動かなくて、そしてその尻尾からは、より一層でろでろが溢れ出てた。
つまり、これって、血?
ずううううううん!
また振動、上から聞こえる。
どしゃあああああん!
落ちてきたのは、岩の塊、元は建物だったかもしれないけれど、落下の衝撃で粉々、それが沢山振ってきた。
「ヘミリア!」
「わかってるわよ!」
叫び、返事して、先へ、ドラゴンの尻尾の向こうへと走った。
……もう一度、ムカデを確認する余裕なんかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます