芸術の村『グリーンパープル村』4
よからぬことが起こってると、流石のあたしも感じとれる。
村人、数は十人を超えて、手には松明を、逆の手には斧とか鉈とかナイフとか、武装し、血走った目、窓から覗くあたしたちに驚きながらもひそひそ話を止めなかった。
「何、あれ」
思わず出てしまったあたしの言葉に、返事なんか期待してなかったけれど、誰も返事しなかった。
「何をしておる貴様ら!」
代わりに声が響いた。
奥、暗がりから現れたのは、白髪の老人だった。
顔までは見えないけれど周囲の反応から偉い人だと、多分村長とかだろうとは想像できた。
その老人が混ざって村人たちが集まり、ひそひそを始める。
そこから、老人は一度あたしたちを見上げてから、大きくため息を吐いた。
「やるならきっちりとやれ、いいな」
小さいけれど、あたしにもはっきりと聞こえてしまった一言に、村人たちが唸るような返事を返す。
「あぁくっそ。だったら飯に毒入れときゃよかった」
悪態は良い知らせ、だけど同時に悪い知らせでもあった。
……逃げよう。
やっと考えがまとまって踵を返し、入ってきたドアへ、ノブを回してて手前に引いて開く。
「「「「あ」」」」
三人ぐらいと目が合った。
だけど数はもっといた。
全員が男、その手にはなんか光るものを持っていて、それぐらいしか見れない間にあたしは反射でドアを閉じてた。
出口、なかった。
「どいてどいて!」
言われるがまま後ろに飛び退くとすれ違うエレナ、片手でずるりとベットを引きずり動かし、ドアの前へ横にしておいた。
そのすぐ後にドアが叩かれて、だけども開かずに塞げていた。
……二段ベット、ドアを塞げる重量、それを瞬時に、片手で、簡単に、今考えることじゃない。
どうする?
考えながらヒントを求めて顔を上げればマミー窓から身をぼり出していた。
そして右手を上へ、屋根へと伸ばすと掴んだろうか、そのまま体を引き上げていって上へ、姿がなくなった。
常人ならざる登り方、悠々とした脱出に、勝手ながら、あたしは見下された思いがした。
伝説と呼ばれ、恐らくは何度も命を狙われ、このような状況も初めてではない、あたしとはちがって、余裕なのだと、言われてるようだった。
『あなたには、できない』最後まで残され見えたアタッシュケースの文字が余計そう思わせた。
「おい逃げたぞ!」
「逃がすな殺せ!」
物騒な声と共に多くの足音が遠ざかっていく。
「女どもは?」
一瞬の間の後、ぐへへへへと下品極まりない笑いが響く。
「ばかもん!」
それを一喝する声は推定村長だ。
「こんな時に下心など捨てろ! それでも貴様らは誇り高き犬鳴き村の村民か! 誇りを持て!」
激が飛んでる。
「余計なことして逃げられたらどうする! 目的は金だ! 見失うな! 目撃者はさっさと殺せ! 遊ぶな! いいな!」
最低な激だった。
誇りだなんだ言ってるけど、結局はただの強盗じゃないの。
そんなやつらにわずかでも儲けを与えたくないわ。今現在やれることも見つからないからできることを、先ずはテーブルの上の宝石を片付けましょう。
できればお土産のハチミツ代も回収してきたいけど、そこまでの猶予はないでしょうね。
「……大丈夫!」
エレナ、いきなり叫ぶ。
「わたし強いから! サーベルもあるし! 食べて少し寝たかた元気だし!」
いきなり何を言い出してるのかしら?
「だから、こわがんなくても大丈夫だよ!」
「あ?」
可愛くない声が出る。
出さないとやってらんない。
だってそうでしょ?
できないと書くマミー、遊ぶなという村長、挙句にエレナ、何? こわがんなくてもいい?
あたしはか弱いお荷物ですか。
あーーーそーーー、あたしは、そんな風に見られてたのねーーー。
あったまきた。
ランタンをひっつかみにドアを封じる二段ベットへ。
「へミリア?」
「退いて」
一言お願いしたら、エレナは素直に退いてくれた。
その横をすり抜け、ランタンを投げつける。
ガキンと、硬い音、少し遅れてチリチリと、だけどすぐに煙が上がり、下のベットに火が灯った。
燃えちゃえ。こんな村燃えちゃえばいいのよ。
「えっちょっと! でらんなくなっちゃったじゃん!」
「だまらっしゃい! んなのそんなの窓から飛び降りればいいでしょ!」
振り返り今度は窓に向かって大股で進み、手前でマミーが座ってた椅子を拾い上げるやぶん投げる。
……椅子は思ったより重くて思うほどの高さも速さも出なかったけど、それでも外へと飛び出していった。
騒めきと引く音、落ちて壊れる音、無視して窓枠にがつりと足をかける。
火事の灯りを背後に、見下すは下、あたしら狙って下に集まる村人共、杖を引き抜きそいつらに向ける。
「আমি তাদের ঘৃণা করি।আমি এটি মুছতে চাই।প্রচুর পরিমাণে মাঝারি বিষআমরা মানের চেয়ে পরিমাণের মূল্য।যত তাড়াতাড়ি সম্ভব তাড়াতাড়ি」
『サモン・ポイズン』
初級魔法の中では中級な方、あたしの使える唯一真っ当な攻撃魔法、呼び出すのは毒の混ざった水、触れるだけでも肌が腫れて痒くなる猛毒を呼び出す魔法だ。
これは人に使うべき呪文ではない、と教わった。
なら、あいつらは人以下だから問題ないわね。
「এতো বিষাক্ত!」
最後の呪文、叫ぶや杖が光、魔法が完成する
あたしの怒りを具現化する青い幾何学模様、松明よりも明るく、夜空より暗い青が弾けるや、巨大な液体の塊となってなだれ落ちる。
本来は少量を呼び出し、別の呪文を付加して矢のように飛ばすんだけど、今のあたしにそんな慈悲はない。ありったけの量で全身溶かしてあげるわ。
逃げ場なんかないわ。
ざあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
液体の流れる音が断末魔までも流し消す。
爽快。夏の夜風が更に涼しくなったわ。
松明の火のように人の命が消えていく……はず、なのに、悲鳴がない。臭いは煙ばかり、あの毒特有のあのすえた臭いが一切しなかった。
「……なんだこれつべてぇ。雨か?」
火が消えた闇の中で声がする。
雨? 水? そんなはずは。だけど生きてる。つまり、失敗?
混乱、同様、だけど立ち直る。だったら、今度こそ、と構えたら世界が崩れた。
違う。あたしが崩れたんだ。
疲労、睡魔、度重なる魔法の連射、限界だった体力が限界を超えて、ただ立つことさえできないほどに消耗してしまったのだ。
やばい。これは、やばいわ。
焦る頭とは別にいうことを聞かない体、抱き留めたのはエレナだった。
「やるじゃん」
子供を褒めるような言葉と共に、あたしを抱き上げた。
お姫様抱っこだった。
いや、これは違うわ。
下から抱き上げる腕と、巨乳との間にあたしを挟み込んだ、もっと屈辱的な運ばれ方だった。
「飛ばすから舌かまないよーにね」
何を、と言い返す前にエレナは飛び降りた。
着地、振動、同時に駆けだす。
疾走する中、より固定されるためにあたしは胸に顔を押し込められて、柔らか暖かな弾力に息がつまって、気が付いたら気を失っていた。
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