第2話 元悪党の日常1

 「では、洗濯物を取り込んで参ります。そう言えば、今日はお医者様がいらっしゃる日でしたね。お客様の用意をいたしましょうか?」

 「いらん。いらん。そんなものをする位なら掃除でもしてくれ」

 「承知いたしました。お医者様がいらっしゃるのは午後だと伺っておりますので、それまでにある程度の準備をいたしておきます」

 「医者など来なくて良いのに」

 「そうはおっしゃらないで下さい。主様は、生きていらしゃるのですから」

 「生きているから辛いって事もあるんだよ。嬢ちゃんには分からんだろうがな」

 「私は自動人形です。動き始めて17年になりますが、いまだに生きると動くの違いが見出せません。何が違うのでしょうか?」

 「そんなもん決まっているだろうが」

 「主様はお分かりなのですね」

 「あたぼうよ。そこに魂があるかないかだ。あれば生きているし、無ければ動いているだけなんだろうよ」

 「なるほど。得心がいきました。魂ですか?主様を始め、人間の方々は魂をお持ちなのですね。あら、お医者様がいらっしゃったようです。お迎えに上がりますのでひとまず席を外させて頂きます」


 「よう、ぼうず。まだ、くたばってねえか?生きてるか?いい加減に迷惑だからおっちねよ。こちとらの用事とか都合とか考えちゃくれねえか?」

 「んなことできるものか。ふざけんな!これでも、精一杯、一日を生きてんだよ」

 「おうよ。それでいいんだよ。お前さんは、さんざん悪事を働いたんだから、生き続けること位は許されるさな。それでも誰かが文句をつけようものなら、言ってやれ。『今から死んでみるか』と。脈も血圧も正常な値だ。三日後にまた来るわ」


 「洗濯物の取り込み、終了しました。おや?お医者様はお帰りになってしまったのですね。せっかくのセイロン産の紅茶が冷めてしまいました。勿体ない。お茶菓子にも手を付けて頂けないのですね。悲しいです」

 「嬢ちゃん。それは悲しいという感情じゃない。ただ、紅茶とお茶菓子が勿体ない、という感情。それだけだ。はき違えるなよ」

 「・・・。そうなんですか。これは悲しい、という感情ですらないんですね。ご指導、ありがとうございます」

 「礼を言われる立場じゃねえ。あんたにゃ何もしてやれそうもないからな」

 「・・・。そんな事はございません。毎日が刺激的で楽しいです」

 「ならいいんだがよ」

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