第3話 ダンジョン突入ですが、何か?
「ダンジョンに突入するのになんでジジイ? 現役じゃないだろ?」
「バイブルさんを馬鹿にしちゃ駄目だよ! バイブルさんは2度目の人生を冒険者として……」
「それって定年してるよな!?」
イライラしてるのを隠さずに叫ぶと智美は明後日の方向を見つめる。
「ないよ? そんな訳ない、タクミンの考え過ぎ!」
シラをきる智美に俺が詰め寄ろうとすると間に入るように踊りながらジジイが入ってくる。
「若人よ、イライラされておられる? お腹が減ってるのですな」
そう言うと俺に差す出すフライチキン(骨付き)を手渡してくる。
突き返そうかと思った俺だったが懐かしい気持ちにさせられる匂いに釣られて思わず齧りつく。
こ、この味はっ!!
俺の耳にチャンチャンチャンチャンチャーラランとクリスマスが近づくとCMで良く聞く馴染みの音楽が流れる。
流れるのは音楽だけでなく、俺の瞳からも涙が流れる。
「やっぱり、アンタはカー○ルさん!?」
「いえ、バイブルさんです」
返事に合わせるようにキレのある腰の動きでコシミノを揺らす。
シャカシャカという耳触りな音を聞きながら確信する。
この人、やっぱりチキン売ってる人っ!
モグモグとチキンを頬張り続ける俺が綺麗に骨だけになるまで食べると骨を捨てて、指に着いた油を舐めながら言う。
「チキンは美味かったが、仲間としては認められん。ジジイを連れて行ったら死ぬぞ?」
「大丈夫、バイブルさん、なんとなく死ななそう」
根拠のない事を自信満々で言う智美に呆れる俺が何か言おうとするとジジイが華麗にターンを決めて言ってくる。
「もう今世に未練を残しておりません!」
「死ぬ気満々かっ!!」
うがぁ! と唸る俺の服の裾を掴んで引っ張る智美。
「タクミン、タクミン。じゃ、3人目に心当たりある? 贅沢は敵、胸の肉は仇」
「どこまで巨乳に恨みがある? あれは世界の宝だぞ?」
とはいえ、智美の言う通り、アテなどないし、このままチンタラしてたら戦争が始まりかねない。
仕方がないか……と諦めた俺がジジイに言う。
「いいのか? 本当に死ぬかもしれないぜ?」
「死など恐れはしませんな……ところでどこに行かれるので?」
言われてみれば説明した覚えがないぞっ!
展開を急ぎ過ぎた自分に恥じた俺は頬を染めながら咳払いをする。
「実はな……」
「よし、分かりました、お供しましょう!」
「説明ぐらい聞けっ!」
思わず、俺はジジイの左頬に右拳を抉るように入れる。
入れられたジジイは地面に叩きつけられてバウンドを数度して噴水にぶつかって止まる。
やべぇ! 今、思わず『怪力無双』を使った状態で手加減少なめで殴っちまった!!
慌てて駆け寄るとムクリと起き上がるジジイにビビる俺。
シャカシャカとコシミノを揺らしながら踊るジジイの左頬がパンパンになっている。
このジジイ、マジで丈夫だっ!
ジジイがコシミノに手を突っ込むと小さな小瓶を取り出して栓を抜いて小瓶に指を突っ込む。
突っ込んだ指にねっとりとした軟膏のようなものを腫れた頬に一塗りして、飛び上がるとキメ顔で言ってくる。
「オールオッケーェ!!!」
「何がオールオッケーェだっ! そんなので治れば回復魔法いらんわっ!」
俺は激情のまま、ジジイの右頬を左拳で打ち抜いた。
▼
「タクミン、落ち着いた?」
「ああ、ありがとう、落ち着いた」
智美が飲み物を買って来てくれたのでそれを飲んで一息吐いた俺が感謝を伝える。
「ところで私の怪我には誰も触れてはくれませんのか?」
両頬がパンパンになってアンパ○マン、いや、どちらかというとジャ○おじさんのようになってるジジイが自己主張をしてくる。
それを見つめる智美が分かってるとばかりにウンウンと頷く。
「ねっ? バイブルさん簡単には殺せないよ?」
「いや、そこは死なないよ? じゃないのか?」
似たようなモノと言ってくる智美に恐怖を覚えるが構って貰えないのか寂しいのかシャカシャカと踊るジジイが目端に映ってウザい。
存在はともかく、俺のチートの『怪力無双』をモロに食らっても頬が腫れる程度となると簡単には死なないだろうな……
背に腹は代えれん!
「チェンジしてたら時間が無くなりそうだから妥協する」
「それがいい」
溜息を吐く俺の前にジジイが正座したままで凄いスピードで近寄ってくると三つ指突いて頬を染めてくる。
「御指名有難うございます。誠心誠意ご奉仕しますので愉しんでくださいね?」
照れ臭そうに言ってくるジジイを俺は無言で顔を上げた所を爪先蹴りで顎を打ち抜いた。
▼
再び、戻ってきたダンジョン入口。
俺は智美とジジイに顔を向けると頷き、壁がある場所に3人で手を添えるとつっかえが突然消えたような感覚に襲われて俺達は3人つんのめるようにして壁を超える。
「おお、入れたぞ!」
「テンションが上がってきました」
テンションが高い俺と対照的に言葉と表情が一致しない智美。
明らかに無表情なんだが?
「ワクワクし過ぎて、胸の肉がプルプルしますな」
こちらは嬉しそうに笑うジジイ。
そちらを見つめる俺は首を傾げる。
結構、死んでもいいや、というつもりで蹴り抜いたつもりなんだが……
ジジイの両頬は既に腫れてなく、打ち抜かれた顎もテープで×に貼ってるだけである。
気にするだけ疲れそうだと割り切る俺は前方のダンジョン入口を見つめる。
「さあ、ダンジョンアタック開始だっ!」
俺はダンジョン入口へと向かって歩き始めた。
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