第11話「ダサジャー姉さんとチャラい兄ちゃん」

 学校内の服装は決まっている。

 このダサジャーか制服のどちらかなのである。

 だから、制服よりも気楽な服装であるダサジャーで朝の食堂はごった返している。ダサジャーは紺色にストライプが入っていて、それぞれ一年が黄色、二年が青、三年が赤で統一されていた。

 食堂の入り口では欠伸をする男子、噂話に花を咲かせる女子が列をなしている。

 そんな中、新入生の女子が新鮮なのだろう、男子達が無遠慮な視線を風子達一年生に向けられていた。特に数人の男子は人を値踏みするような目で見ているのもいる。風子や緑はその視線にぞくっとしてしまった。

 たじろく一年女子、その列から一歩前にでる三年生がいた。

「じろじろ人を見てるんじゃないわよ! 私の可愛い一年生達が汚されるから、ちょっとは遠慮しろっ、このドウテイどもがっ!」

 ドンッ。

 踏み込んだ足の音を響かせながら、男子の列に叫ぶ姿はまさに勇姿だ。純子の容姿はベリーショートのお姉さん風である。そして声は落ち着いた女性な感じであるが、その啖呵はギャップがありすぎた。

 だからこそ、その言葉は迫力があり。ちらちら見ていた男子をしょんぼりさせた。

 そんな中、一人ニヤニヤ笑っている者がいた。

 髪が茶色かかった二年生、名札は『渡辺』と書いてある。その隣には上田次郎がいた。

「そうか、なら俺は遠慮しなくていいのかなー」

 と次郎にニヤニヤしながら話しかけているのは、さっきの茶髪の二年生、渡辺潤ワタナベジュンだ。

「声が大きいですよ、ジュンさん」

 次郎は焦った口調で潤に言った。

 きっと隣にいる風子を見たからだろう。

 彼の中では『心の中の近寄っていはいけない人物リスト』に彼女は入っていた。

「やば、睨まれた、怖いよ、ジロウ君」

 そうやって男子がはしゃいでいるのを尻目に純子はしらけた顔を風子に見せた。

「そうそう、あの二年生には気をつけたほうがいい」

 そう純子さんが言った。

「やるだけやると捨てるような奴」

 そう付け加えてユキさんは囁いた。昨日三人でじゃれあった時とは違った意味で目が怖い。

 チャラチャラした感じの男。

 気をつけよう。

 風子はそう思った。

 昨日の綾部軍曹といい、この茶髪の二年生といい、危ない感じがする人なのだ。

 きっと、地味でもてそうにない私みたいなのが標的になるんだろう……そんな風にも思ってしまう。

 中学でもチャラチャラした男は、同じく不良な女子に手を出すか、もてなさそうな地味な女子に手を出すか……何にしても下心だけで動く。

 彼女の中ではそう定義つけられていた。

 ナイレン禁止。

 中隊長が言った言葉を風子は思い出した。

 まったくの取り越し苦労。どう考えても、ああいう人たちと恋愛関係なんかになることはない。

 風子はそう思う。

 ――学校生活の楽しみは恋愛だけじゃない。

 しょうがない、軍隊だから。恋なんてしている暇はない。

 彼氏なんて作る暇はない。

 ――別に彼氏なんて欲しくないし。

 彼女はそう思う。そして、チラッと男子の方を見た時、次郎と目が合ってしまった。

 一瞬だけ、なぜか見つめ合った後、お互いに顔を別の方向に背けた。

 かかわるな。

 それが共通した二人の思いだった。

 もちろん、これからの学校生活。

 同じ学年、同じ中隊。

 関わらない方が難しいことを思い知ることになるのだが。

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