第2話 【甘いコーヒーは、いかがですか。】
高校を卒業したらうちの喫茶店で
働かないか。
高校を卒業する間近にきてなにも就活の成果を出せていないまま、ここまで過ごしてきてしまった私、小野田蕾はお父さんからそう催促されていた。
できるだけ早くが最近の父の決まり文句になっていた。
だけど、何も自分の可能性を試すことなく言われるがままの人生をおくるだけでそれいいのか寂しくも思ってしまう。
喫茶ONODA。父が3年前から自営業で始めたこじんまりとした喫茶店だ。
私も、家の手伝いとしてそのころから喫茶の看板娘兼バリスタとして働いてきている。
喫茶店の内装は素朴な街中にある定食屋を感じさせる素朴な印象でテーブル席が立ち並び入り口から一番近いところにちゃんとカウンター席も用意されているあたりホッとさせられる作りだ。
カウンターでサイフォンの前でついさっき来店してきたお客さんへの接客をしていく。「上手なラテアート上手ですね。俺がやったらこうはいかないから羨ましいです。」
お客様が少ない店内のカウンターに座るに一人の男性客にわたしはカフェラテにラテアートを施し差し出す。
「コーヒーはお好きなんですか。」
「そうですね、普段から気に入った店のを見つけてはお邪魔したりしているんですもので」
「今回もですか」
「はい、直ぐそこの通りを歩いていて少し冒険してみようと思っていつもとは違う道を歩いてあたらたまたまに。」
「どうですかうちの喫茶は?」
「ええ、良い店に出会えました」男は切れ長の目をにこやかに細めて
再び、コーヒーカップに口をつける
「一緒にチョコレートケーキはいかがですか」カウンターに立つバリスタは営業スマイルであろう素晴らしい笑顔で勧められる
「えっと。セールス文句ですか」
「いえ、心遣いです。お客様もあなた以外居ないのでほんのお気持ちです。良かったら。」
「では、お一つ。」
なんだか得した気分で注文を頼む。
「まいどありです。」
そして、目の前に重厚なガトーショコラにホイップクリームがちょこんとトッピングされて出てくる。
「おお、ケーキにクリームが。こんなところにも心遣いが。」
「いや、こうゆうメニューですから。」
とバリスタは訂正する。
「あ、なるほど。」
ホォークでケーキの生地に差し込み切れ目を入れる。
サクっと一口。
「甘ーい。思わず口が緩む。」
「甘いのは大丈夫ですか。」
「大丈夫ですコーヒーがありますから。」
男はコーヒーカップに手を伸ばそうとする。
「ちょっと待って下さい。」
「どうしましたか」
バリスタがおもむろにに小さな樽状の容器を前に突き出す。
「砂糖..ですか」
「コーヒーを頂く前にひと匙どうぞ。」
「でもそれじゃあ甘いものに甘いものでは...」
「いいですからコーヒーが美味しくなるので」とバリスタは微笑みシュガーの投入を勧めてくる。甘いものに甘いコーヒーなんてと言われるがままにスプーンに小盛りに取りカフェラテに入れてかき混ぜる。
「うぁーアートがぁ」
辛うじてハートがたが崩れ切らない内にバリスタの悲痛な声に手を止める。
「いいですから混ぜて、混ぜて」
再びスプーンの動きを再開させる。
今度は完全にアートが崩れ去った。
「うぅ...」バリスタはまたもや表情を曇らせる。
なんだかこっちが悪いことをしているみたいな気持ちになってくる
「ちょっと、バリスタ...」
「混ざりましたか。では一口どうぞ。」
男はコクりと一口含む。
「あれ...しつこくない」
「そう、ケーキの甘さが引き立つんですよ」
『その心は、なんででしょうか。』
男は期待に胸を高鳴らせ尋ねる。「ふふ。それは甘さの相乗効果がもたらしてくれるものですかね。ブラックではせっかくの甘さ。打ち消してしまうので。」
バリスタに微笑み応える。
「では、バリスタ。あなたの知識が暴露されたとこでそろそろ会計をお願いします。」
『はい、ケーキセットで740円になります』と本日一番に笑顔を見せて言ってくれる。
「なん、だと...」
でも、彼女の笑顔に免じてプラマイ0にすることにしよう。
1000円札を出してその場を去るのだった。
『あの、お客様』後ろからバリスタの声がする
『釣りは要らないよ』
「忘れもの.....,」と小さく呟く。
蕾はお客様が落としていったcafeのメンバーズカードを拾い上げ、見つめるのだった。
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